第5回日本アカデミー賞優秀作品一覧に戻る
日時: 1982(平成-6)年2月18日(木)
場所: 東京プリンスホテル
司会: 山城新伍

優秀作品賞
最優秀賞/優秀賞
(C)1981 東宝

最優秀作品賞 「駅 STATION」


オリンピックの射撃選手でもある刑事をめぐる事件と女たち。高倉健に多彩な女優陣がからみ、雪の北海道を舞台に、11年間にわたる主人公の人生にかかわった3人の女たちとの出逢いと別れが描かれる。人間が集い、離散する象徴として“駅”があり、風吹の中で歓びと哀しみが交叉する。リリシズムにあふれた見応え充分の大作だ。(東宝映画)

優秀作品賞 「ええじゃないか」


明治維新を間近に控えた江戸末期。喧噪と猥雑に満ちた東両国界隈を舞台にほとばしる庶民のエネルギーを描いた今村昌平監督ならではの熱気あふれる群衆劇。アメリカ帰りの若者と裸を見世物にするその妻、豪商、旗本くずれなどが時代の波に翻弄され、“ええじゃないか”と権力と対峙する民衆の雄叫となって噴出する。(松竹=今村プロ)

優秀作品賞 「遠雷」


都市化の進む東京近郊の農村にしがみつくようにしてトマト栽培に精を出す若者とその妻を描く青春映画。土地を売った金で、愛人を囲う父、それを見てオロオロするばかりの母、何が何でも土地に執着する祖母の中で、主人公の若い二人がおおらかにしたたかに生き抜くバイタリティが小気味よい。ピリッと辛い味つけもある佳作だ。(にっかつ撮影所=ニューセンチュリープロデューサーズ=ATG)

優秀作品賞 「泥の河」


昭和31年、日本が高度経済成長期にさしかかる頃、大阪安治川河口の食堂の少年と、対岸に繋がれた廓舟に住む幼い姉弟との心の交流を通して、戦後世代の原点を探ろうという意欲作。太宰治賞受賞の宮本輝の原作を、監督第一作の小栗康平は白黒、スタンダード画面でじっくりと撮り上げ、深みのある作品に仕上げた。(木村プロダクション)

優秀作品賞 「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」


実証的映画作りでは定評のある熊井啓監督が戦後史の暗部・下山総裁轢断事件の謎に挑んだ力感あふれる社会派作品。「帝銀事件・死刑囚」「日本列島」などで追及した疑惑をより深く掘り下げ、新たな証拠のもとに作品化。正攻法でグイグイ押してくる同監督ならではの描写力は圧倒的だ。白黒画面がリアル感を増し、説得力のある作品に仕上った。(俳優座映画放送)
優秀監督賞
最優秀賞小栗康平(泥の河)


篠田正浩、浦山桐郎と二人の優れた監督のもとで、助監督を務めた後1981年「泥の河」で鮮烈に監督第一作を飾った。終戦の年、昭和20年に生まれた彼は、昭和31年の大阪を舞台に自らの少年時代を主人公の子供たちにオーバーラップさせながら、戦後世代の心の原点をモノクローム・スタンダードサイズで、見事に描ききった。(昭和20年 群馬県)
優秀賞今村昌平(ええじゃないか)


「にっぽん昆虫記」「赤い殺意」「神々の深き欲望」など、日本人の心の奥に潜む人間性をバイタリティあふれるタッチで描き、一作ごとに衝撃を呼ぶ日本を代表する監督の一人だ。3年前、約10年ぶりにメガホンをとった「復讐するは我にあり」に続き、初の時代劇「ええじゃないか」を放ち、江戸末期の庶民のエネルギーを存分に描いた。(大正15年 東京都)
優秀賞熊井啓(日本の熱い日々 謀殺・下山事件)


「忍ぶ川」「サンダカン八番娼館」そして「お吟さま」「天平の甍」と大作が続く熊井監督が、初期の作品群「帝銀事件・死刑囚」「日本列島」で追いつめた日本の戦後史の暗部を一層の鋭利さで切り裂いたのが「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」だ。実証主義的方法で正面からグイグイと迫る熱っぽい演出で、すさまじい力量を示した。(昭和 5年 長野県)
優秀賞根岸吉太郎(遠雷/狂った果実)


1978年監督昇進以来、にっかつ作品を着実に手がけてきた彼が「狂った果実」、「遠雷」で大きく飛躍した。新興都市を舞台に、農業に固執する若者と、反発する友人を対比させ、夢と現実を直視した「遠雷」。あてどない日々を送る都会の若者たちを性と暴力を通して描ききった「狂った果実」。いずれも”青春” の瑞々しさがあふれていた。(昭和25年 東京都)
優秀賞降旗康男(駅 STATION/仕掛人梅安)


「網走番外地」シリーズで高倉健とは縁が深かったが、4年前の「冬の華」で久々に健さん映画のメガホンをとり、続いての主演作「駅 STATION」も担当。雪の北海道を舞台に、一人の中年刑事をめぐる女たちの出逢いと別れを抒情味たっぷりに描き、深い人間洞察に基づく確かな演出力を示してくれた。また、初の時代劇「仕掛人梅安」でも冴えを見せた。(昭和 9年 長野県)
優秀脚本賞
最優秀賞倉本聰(駅 STATION)


高倉健のために書いたのは、テレビの「あにき」、東映「冬の華」に次いでのもの。北海道の駅を趣味で写真に撮っているうちに、高倉を主人公にこの「駅 STATION」のストーリーを書き進めたという。主人公と女性たちとの出逢いと別れが、細部にまでゆきわたった緻密な構成で貫かれているのはこの人ならではのもの。(昭和 9年 東京都)
優秀賞荒井晴彦(遠雷/嗚呼!おんなたち・猥歌)


「遠雷」「嗚呼!おんなたち・猥歌」と1981年も快調だった。土に固執し、したたかに生きぬく青年とふとした弾みで殺人までしてしまう友人を対比させて、現代の“青春”を浮き彫りにした「遠雷」。ロック歌手と女たちの愛欲を描いた「嗚呼-」では、「赫い髪の女」と同様に神代辰己監督と共に、男と女の実相を巧みに見せてくれた。(昭和22年 東京都)
優秀賞菊島隆三(日本の熱い日々 謀殺・下山事件)


「野良犬」から始まり「用心棒」「天国と地獄」などの一連の黒澤明作品を手がけてきた第一人者が、入魂のうちに書き上げたのが「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」である。戦後史の暗部に楔を打ち込む問題作。格調高く、ガッシリと組み立てられた脚本は見る者をグイグイ引き込む迫真力に満ちて、映画的興奮を味わせてくれた。(大正 3年 山梨県)
優秀賞重森孝子(泥の河)


「泥の河」は1981年の大きな収穫だったが、宮本輝の原作を脚本化したこの人の存在も忘れてはなるまい。小説として完成されたものを映像のつながりを想定しながら再構築する作業は大変なものである。テレビの「新八先生」シリーズなどを手がけている彼女の、子供の心理を洞察する眼や鋭敏な感覚のもとに、素晴しい脚本に仕上った。(昭和14年 兵庫県)
優秀賞田中陽造(陽炎座/ラブレター/仕掛人梅安/女教師 汚れた放課後)


次から次に眼も彩な花々を咲かせるように、作品を生み続ける人である。しかも、そのどれもが第一級の佳作なのだから恐れいる。1981年も「陽炎座」「ラブレター」「仕掛人梅安」「女教師」「汚れた放課後」という多彩な傑作をものにしている。内容に差異はあれど、自在な構成力と卓抜した映像表現はいずれも素晴しい。(昭和14年 東京都)
優秀主演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞高倉健(駅 STATION)


自分のために書き贈られた倉本聰の脚本を手にした時、「忙しい人が僕のためにと胸が熱くなった」と語る健さん。撮入前に舞台となる北海道に飛び、アメリカで射撃の練習もして役に臨んだ意欲は、一シーン一つのセリフもゆるがせにしない熱演となってスクリーンに結実している。一作ごとに芸域を深め、魅力を加えている昨今だ。(福岡県出身)
優秀賞渥美清(男はつらいよ 寅次郎かもめ歌/男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎)


渥美清の寅さんといえば、今や国民的なアイドルだ。毎年盆と正月、これを見ないと忘れ物をしたようだと多くの人がいう。「作品作りや演技は生きている証明。寅さんを何本やろうと常に新しい自分を出してみたい」と語る渥美。記録的長期シリーズだが一作ごとに新鮮に感じるのも、彼の役者としての情熱の賜物だろう。(東京都出身)
優秀賞緒形拳(北斎漫画)


「富獄三十六景」などの風景版画の創始者でもある浮世絵師葛飾北斎の型破りでエネルギッシュな人間像を見事に演じきった緒形拳。35歳から一気に89歳の老け役に転じたり、身内に何かがうごめいているような天才芸術家を肌で実感させてくれた。作品ごとによくも違った人間像を見せてくれる役者である。(東京都出身)
優秀賞永島敏行(遠雷)


昭和53年のデビュー以来、素朴で無口なシンのしっかりした青年像を演じて、若者に熱い支持を受けているが、「遠雷」でも、農業離れの仲間たちとは一線を画し、地にしっかりと足をつけた青年を好演。だが見合いした相手とそのままモーテルに入る現代的な要素もちゃっかりと演じきれる単なる古風と違う魅力も持ったホープだ。(千葉県出身)
優秀賞水谷豊(幸福)


「青春の殺人者」から5年ぶりの映画出演。前作の若さを爆発させた役から一変して、「幸福」では子連れの中年刑事を演じたわけで、無精ヒゲを伸ばし、髪に寝ぐせをつけたりと苦心した。市川崑監督の注文は“普通に!”で、それがまた大変だったそうだが、テレビの「熱中時代」とも違う新しいキャラクターを打ち出した好演ぶりだ。(北海道出身)
優秀主演女優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞松坂慶子(青春の門/男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎)


美人女優としても名高い彼女だが「青春の門 」では、主人公信介の母親に扮して、炭塵にまみれながら、大地にしっかりと根をおろした“女” を熱演。「男はつらいよ浪花の恋の寅次郎」での寅さんのマドンンナ役では、大阪の薄幸の芸者を演じ、はかなくも可愛い女を見せてくれるなど、充実した活躍で映画ファンを魅了し、女優としてひときわスケールアップした1981年だった。(東京都出身)
優秀賞石田えり(遠雷)


「遠雷」の演技がよほど鮮烈に多くの人の共感を呼んだに違いない。ベテランに交っての堂々の受賞に「うれしい」を連発する彼女だ。立松和平の原作を読み、ヒロインに共感を持ち、大地から生まれたようなキラキラ輝く生命力と強さを演じたかったというが、その言葉通りのまばゆいばかりの個性を見せてくれた。(熊本県出身)
優秀賞岩下志麻(悪霊島)


「心中天綱島」「はなれ瞽女おりん」などに続く夫君篠田正浩監督作品「悪霊島」で、一人で姉妹を装い、殺人を犯す二重人格の人妻を演じたが、その凄艶なまでの美しさと鬼気迫る演技が見る者を異様な興奮に誘い、日本の風土に根ざした暗い過去が一人の女を狂女にも悪女にもする恐しさと切なさを感じさせてくれた。(東京都出身)
優秀賞倍賞千恵子(駅 STATION)


「これまでは家族がいる役なんかが多かったけど、今度のはまったくの一人ぼっち。とても惹かれました」という「駅 STATION」での桐子役に燃えた倍賞。北の果て、増毛で飲み屋をやっている彼女は愛の残り火をそっと手の平で暖めているような女。高倉健扮する刑事との出逢いと別離。9分半の二人の長廻しシーンはまさに圧巻だった。(東京都出身)
優秀賞桃井かおり(ええじゃないか)


今村昌平監督の映画にぜひ出たかったという念願がかなって「ええじゃないか」のヒロインに抜擢された桃井。身体を張って生きる江戸庶民のたくましい“女”を文字通りの体当り演技で表現。踏まれても死なない雑草のような強さ、好きな男にはめいっぱい尽す可愛い女心がスクリーンに横溢し、群衆劇にあっても、その存在感は輝いていた。(東京都出身)
優秀助演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞中村嘉葎雄(陽炎座/ラブレター/仕掛人梅安/ブリキの勲章)


多彩な演技で楽しませてくれた人の筆頭だろう。「ラブレター」での金子光晴、「陽炎座」での正体のわからない資産家、「仕掛人梅安」 での“彦さん”。「ブリキの勲章」では教師役と、千変万化の活躍だった。「坊主から裸までやったので恐いものがない。何でもこいですよ 」と語るが、その言葉通り、今後がますます楽しみだ。(東京都出身)
優秀賞石橋蓮司(獣たちの熱い眠り/魔性の夏)


「獣たちの熱い眠り」でのチンピラ風悪役が異色だった。恐喝する相手に逆襲され、包帯を巻き車椅子に乗ってまで、笑顔を見せて残金を要求するなど新しい型の悪役誕生か。「魔性の夏」での直介も、亭主を殺して、好きな女を奪う役柄が好きだそうで生々しい存在感があった。人間をどうしようもなく愛しく思わせる演技をする人だ。(東京都出身)
優秀賞宇崎竜童(駅 STATION/ミスター・ミセス・ミスロンリー)


「曽根崎心中」以来、演技者としても注目株の人だが、「駅 STATION」「ミスター・ミセス・ミスロンリ-」でも印象に残る好演を見せてくれた。不良っぽい雪夫という役で、過黙な高倉健に、ベラベラしゃべりかけるシ-ンなど楽しかった。「ミスター・ミセス・ミスロンリー」でのオカマ青年役も意外性があり、熱演だった。俳優としても可能性は大きい。(京都府出身)
優秀賞ジョニー大倉(遠雷)


東映のアクション映画などで得意の空手を生かした派手なシーンなどが印象的だが、「遠雷」では主人公永島敏行の幼なじみとして、表裏をなす役で、一方が農業に専念すれば彼は女に狂って殺人までしてしまう。ちょっとした弾みで、逆になってもおかしくない。そんな人間の弱みと青春の苦汁を身体いっぱいで表現してくれた。(神奈川県出身)
優秀賞西田敏行(北斎漫画)


テレビを通じて茶の間の人気者。昨年は歌が大ヒットして、歌番組をにぎわせもしたが、役者としては本格派。 3 年前「悪魔が来たりて笛を吹く」で映画初主演。1981年は「北斎漫画」で、北斎の生涯の友であり、ライバルの滝沢馬琴を熱演。天才と称される人の人間味と、北斎との魂の深いところでのふれ合いを実感させてくれた。(福島県出身)
優秀助演女優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞田中裕子(北斎漫画/ええじゃないか)


テレビの「マー姉ちゃん」で人気者になったが、映画では思いきりのよい演技で喝采を受けている。「ええじゃないか」では、今村昌平監督のもとで娼婦に扮しての汚れ役。「北斎漫画」では北斎の娘に扮して、父が塞ぎこんでいると、「私を描いて」とサラリと美しい裸身を見せるなど、気負いのない演技で大きく育ちそうだ。(大阪府出身)
優秀賞いしだあゆみ(駅 STATION)


長い映画の中で、出演シーンは短くとも、見終った後に強烈な印象を残す人がいるものだ。 「駅 STATION」での彼女がそうだ。ただ-度の過ちで離婚を余儀なくされる女。雪の降る銭函駅。走り出す列車から、女は男と最後の別れをする。思わず敬礼をするが、吹き出す涙をおさえきれない女心を見事に凝縮した演技だった。(大阪府出身)
優秀賞加賀まりこ(泥の河/陽炎座/ラブレター)


どんな作品に出ても、キラリと光る人である。美しく、個性的な魅力は主役でも脇にまわっても貴重だ。「泥の河」の少年・喜一の母親役では、廓舟で春を売る女を切なく演じ、「陽炎座」では主人公の下宿先のおかみ、「ラブレター」ではヒロインの隣家の住人といずれも重要な役どころをキチッと押え、作品に厚みを加えている。(東京都出身)
優秀賞烏丸せつこ(駅 STATION)


人気モデルから「四季・奈津子」でセンセーショナルに映画デビューした彼女だが、その後も「マノン」主役などで着実に伸びている。「駅 STATION」では、頭のちょっと弱いすず子を演じて、兄と近親相姦的な雰囲気を匂わせながら、好きな男にころりとだまされる純で可愛い女を見せてくれた。女優として一層の飛躍となった。(滋賀県出身)
優秀賞岸本加世子(悪霊島)


テレビドラマやCMでキュートな魅力をふりまいているが、「夢いっぱい・ザ・らいばる」 で映画出演を果たし、1981年は「悪霊島」で双児の姉妹に扮して好演。もともとが日本的風土に根ざしたオドロオドロした物語。呪われた出生の秘密を背負った姉妹を、二役で演じわけながら、病的な少女の雰囲気を見事に表現してくれた。(静岡県出身)
優秀音楽賞
最優秀賞宇崎竜童(駅 STATION)


1975年、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」で一躍人気歌手に。サングラスのツッパリ野郎として若者に支持されているが、最近では演技者として、また、やはり本職とばかりに、「白昼の死角」の音楽監督で映画音楽にも進出。「駅 STATION」では出演する一方、音楽も担当。男の哀感をにじませた曲調が一層この映画を盛り上げている。(昭和21年 京都府)
優秀賞井上堯之(遠雷)


ザ・スパイダースをふり出しに、バンドを組み沢田研二のバックを務めていたこともあり、音楽歴は長い。ギタリストとして評価は高いが、作曲活動も活発で、「太陽にほえろ 」( N T V )、「太陽を盗んだ男」などテレビや映画音楽にも才能を発揮。「遠雷」でも現代感覚にあふれたサウンドを聞かせ、若者の心情をよく表わしていた。(昭和18年 兵庫県)
優秀賞佐藤勝(日本の熱い日々 謀殺・下山事件/子供のころ戦争があった)


「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」と「子供のころ戦争があった」といずれもシリアスな作品だが、格調の高い音楽がしっかりと作品をささえていた。昭和27年、24才から映画音楽を手がけているベテラン。「用心棒」「戦争と人間」「幸福の黄色いハンカチ」など、作品歴をひもとくだけでもその優れた業績がうかがえる。(昭和 3年 北海道)
優秀賞林光(北斎漫画/日本フィルハーモニー物語炎の第五楽章)


「北斎漫画」「日本フィルハーモニー物語炎の第5楽章」と、趣きの違う二本の作品を手がけているが、前者では江戸庶民の日常と天才芸術家の人間味が味わえるし、後者はオーケストラの厚みのある曲調が効果的だった。音楽が前に出過ぎると映画を嘘にするという持論通りに適所に押さえた音楽配置が今回も生かされていた。(昭和 6年 東京都)
優秀賞南佳孝(スローなブギにしてくれ)


同名の主題歌も大ヒットした「スローなブギにしてくれ」。テレビのスポットに毎日のように流れたものだ。シンガーソングライターとして人気・実力共にトップの南だが、映画好きとあって意欲充分に取り組んだもの。原作の片岡義男の透明感と共鳴するものがあるそうで、孤独で都会調のクールな仕上りは効果充分だった。(昭和25年 東京都)
優秀撮影賞
最優秀賞安藤庄平(泥の河)


「私が棄てた女」「十八歳・海へ」など印象深いが、「泣く女」をはじめにっかつ作品を数多く手がけ、才気を発揮。1981年は「遠雷」「スローなブギにしてくれ」、そして「泥の河」と話題作が相次いだ。特に「泥の河」は白黒、スタンダードサイズの画面に、生きることのつらさ、哀しみを凝縮。その清澄な面調は見事なものだった。(昭和 8年 東京都)
優秀賞木村大作(駅 STATION)


ガンコでエネルギッシュで、最も攻撃的なカメラマンである。「八甲田山」「復活の日」などでの何時間でも雪を待つ執念や南極の厳しい自然との闘いは語り草だ。全ては妥協を捨て、最高のシーンを撮るためで、「駅 STATION」でもそのネバリが生かされ、感動のシーンがフイルムに収められた。役者に安心感を与える人でもあるという。(昭和14年 東京都)
優秀賞中尾駿一郎(日本の熱い日々 謀殺・下山事件)


「日本の熱い日々謀殺・下山事件」の白黒映画の全盛期を思わせるキメ細かな色調や深みが作品を一層リアルなものにしている。当時のニュースフイルムなど挿入するため違和感がないようにカラ一をさけたそうたが、現像、焼き付けまでつきっきりで事にあたった熱心さが素晴しい画面を形成している。試写を見た直後、永眠されたが御冥福を祈ります。(大正 7年 東京都)
優秀賞永塚一栄(陽炎座)


日活アクション映画時代、鈴木清順監督との作品も多いが、一昨年「殺しの烙印」以来13年ぶりに「ツィゴイネルワイゼン」で顔を合わせて傑作に仕上げた。「陽炎座」も引続いての同監督作品だが、幻想的な物語を効果的にするため曇天の日を狙っての撮影を敢行。現実の風景をセットと見紛う程の不思議な感覚を味あわせてくれた。(明治39年 東京都)
優秀賞姫田真左久(ええじゃないか)


日活、大映などで話題作を撮り上げ、フリーになった現在もその仕事ぶりは注目の的である。「ええじゃないか」の今村昌平監督とはかつて「にっぽん昆虫記」などをものにし、前作「復讐するは我にあり」に続いての仕事だ。大群衆シーン、鈴なりの人を乗せた舟が往来する場面など、大胆な構図でスケールを感じさせてくれた。(大正 5年 兵庫県)
優秀照明賞
最優秀賞島田忠昭(泥の河)


「泥の河」は白黒、スタンダードサイズの画面であり、いわば映画の原点といえる形式である。カラー、大型画面が全盛の今、あえて試みたわけだが、白黒画面は照明の巧拙で大きく左右され、ライトの位置、光量などに異常に気をつかうものだという。陰影の濃い見事な画面に仕上っていて、その技術の確かさを示していた。(昭和12年 東京都)
優秀賞望月英樹(駅 STATION)


「獄門島」(市川崑監督)、「復活の日」(深作欣二監督)と代表作は多いが、「獄門島」の怪奇幻想の絵作り、「復活の日」の南極大陸では氷の世界の照り返し処理などに苦労がしのばれる。そして、「駅 STATION」だが、これは吹雪の北海道と厳しい仕事が続いたが、白一色の雪中場面、夜間シーンに苦心の成果が実っていた。(昭和12年 東京都)
優秀賞岡本健一(日本の熱い日々 謀殺・下山事件)


「雨月物語」「山椒太夫」など溝口健二監督作品では陰影のある画面で作品の価値を高め、大島渚監督の「愛のコリーダ」「愛の亡霊」の暗調の画面でも冴えを見せてくれた。「日本の熱い日々謀殺・下山事件」は白黒画面であり、念入りなライティングが勝負。白黒映画未経験の若いスタッフをリードし良質の画調作りに貢献した。(大正 3年 京都府)
優秀賞大西美津男(陽炎座)


「幕末太陽伝」(川島雄三監督)、「八月の濡れた砂」(藤田敏八監督)、「化石」(篠田正浩監督)など実力派監督との代表作も多いが、昨年の「ツィゴイネルワイゼン」に続いて鈴木清順監督の「陽炎座」を担当。カメラの永塚一栄氏と組み、曇天の撮影に臨み、かつてない程の数多くのライトを駆使して、華麗な映像美を見せてくれた。(大正15年 東京都)
優秀賞岩木保夫(ええじゃないか)


「にっぽん昆虫記」「赤い殺意」「神々の深き欲望」そして、「復讐するは我にあり」など、今村昌平監督作品には欠かせない人である。「ええじゃないか」でも、猥雑な江戸村のセットの群衆シーン、芝居小屋や狭い屋形舟の中での室内撮影などに綿密な照明技法を発揮して、熱気にあふれた画面作りに成功している。(昭和 2年 兵庫県)
優秀美術賞
最優秀賞井川徳道/佐野義和(魔界転生)


死霊が蘇ってきて復讐をとげる奇想天外な話だからこそ本格的な時代劇セットが必要だった「魔界転生」。城内のセット、多数の死者の丘、本物ソックリに再現した細川ガラシャ夫人の墓所など特筆すべき個所ばかりだった。井川氏の昭和30年代の東映時代劇で培った成果が、後輩の佐野氏の協力で見事な相乗効果をあげた。(昭和4年 京都府) (昭和14年 大阪府)
優秀賞朝倉摂(悪霊島)


舞台と映画では美術の面で本質的に違うという。舞台は一方方向から観客が見るものがほとんどだが、映画はカメラアングルで多方向から見られるからと。だが「悪霊島」では、鍾乳洞の中を舞台空間のように作り上げて、セットとロケーションの区別がつかなくなる程の効果をあげ、摩訶不思議な世界に見る者を誘ってくれた。(大正11年 東京都)
優秀賞木村威夫(日本の熱い日々 謀殺・下山事件)


「日本の熱い日々謀殺・下山事件」は熊井啓監督の実証主義に基づき実在の個所を一つ一つ廻って、限りなく本物に近いセットを再現したという。朝日、読売、毎日の三大紙の編集室を参考に作られた新聞社の内部などリアルそのものだった。かつては鈴木清順監督の映像美に貢献し、熊井監督の近作を続けて担当している。(大正 7年 東京都)
優秀賞佐谷晃能(ええじゃないか)


「復讐するは我にあり」に続いての今村昌平監督作品の「ええじゃないか」。江戸末期の庶民のエネルギーを描くとあって、両国橋、芝居小屋、食べ物屋などが密集する江戸村のオープン・セットを3億円余を投じて念入りに作るなど、作品に厚味を加えている。山口百恵の文芸大作や松田優作のアクション映画など幅広く手がけている。(昭和 2年 東京都)
優秀賞樋口幸男(駅 STATION)


雪の北海道を舞台にした「駅 STATION」は、現地ロケーションとセット撮影の違和感が出ては大変だ。雪国の家々は、長い年月を雪との格闘により鍛えられた独特の雰囲気を持っている。ガッチリ構築された建物をセットに組み、不自然さを感じさせなかったのはさすがである。高倉と倍賞のからむ飲み屋のセットなど素晴しい効果をあげていた。(昭和 6年 神奈川県)
優秀録音賞
最優秀賞田中信行(駅 STATION)


「帰ってきた若大将」、「駅 STATION」と趣きの違う作品が続いたが、ハワイロケもあった「帰ってきた若大将」の後に、北の果ての雪深い所での撮影と変化のある1981年だったようだ。「駅 STATION」では吹雪の音、雪を踏みしめる独得の音色、列車の発着の音、雪中での微妙な声の変化などに苦心し、リアルな音を聞かせてくれた。(昭和 2年 東京都)
優秀賞中山茂二(魔界転生/仕掛人梅安)


「魔界転生」がスケールの大きなS・Fものなら、「仕掛人梅安」はじっくりと迫る正統派と、それぞれ一味違う時代劇にたずさわった中山氏。凄絶な火炎シーンが印象的な「魔界転生」では、カメラが絵を撮り終えた直後に、セリフを録る方法をとり、効果充分だった。また「仕掛人梅安」での繊細な音作りも印象的であった。(大正13年 京都府)
優秀賞西崎英雄(泥の河/悪霊島)


「悪霊島」(篠田正浩監督)、「泥の河」(小栗康平監督)といずれも個性的な監督の主張がしっかりと表現された傑作だったが、鍾乳洞でのロケと、そのリアルなセットでの場面が重要な「悪霊島」での現実感あふれる洞内の音録り。「泥の河」での同時録音による臨場感いっぱいの子供たちの声など、素晴らしい成果が見られた。(大正 9年 岡山県)
優秀賞紅谷愃一(日本の熱い日々 謀殺・下山事件)


「黒部の太陽」「太陽を盗んだ男」などに続いて1981年は「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」と「スローなブギにしてくれ」の二本を担当。「日本の熱い日々――」はドキュメンタリータッチの迫力あるシーンが続いたが、“音”もまたリアルな臨場感タップリの効果をあげていたし、「スローなブギ――」でも大いに腕をふるってくれた。(昭和 6年 京都府)
優秀賞吉田庄太郎(ええじゃないか)


「八甲田山」「八つ墓村」「天平の甍」などに次いで、3 年前の「復讐するは我にあり」「ええじゃないか」と今村昌平監督作品が続いている。同監督初めての時代劇、それも大群衆シーンの連続で、“ええじゃないか ”と連呼して権力と対峙するクライマックスシーンなど、臨場感にあふれた音録りが素晴しい効果をあげていた。(大正14年 東京都)
優秀外国作品賞
最優秀賞ブリキの太鼓


第一次世界大戦と第ニ次大戦の時代の狭間のダンツィッヒを舞台に大人の醜さを知って、 3 才で成長を拒否した少年の眼を通して、激動の歴史が描かれる。従兄との不倫の関係で少年を生んだ母は自殺し、ナチスの台頭で父である従兄も銃殺された――。歴史、人種問題、恋愛、家庭などをシュールな感覚で描いた不思議な魅力作。(フランス映画社配給)
優秀賞愛と哀しみのボレロ


モスクワ、パリ、ベルリン、ニューヨークで生まれた4人の芸術家の愛とさすらいの歳月を華麗なダンスと音楽を散りばめて描いた大河ドラマ。第二次世界大戦がもたらした死と別離の哀しみ。そして戦後史に刻まれた数々の事件がその子や孫たちの人生を左右する。名匠ルルーシュ監督が思い入れタップリに描いた現代史といえる。(日本ヘラルド映画配給)
優秀賞エレファント・マン


生まれながらの奇型から、エレファントマン(象人間)と呼ばれ数奇な一生を終えた実在の人物ジョン・メリックをモデルにした人間ドラマ。19世紀末のロンドンをモノクロームの画面で見事に再現し、彼を見世物小屋から救う医師、好奇な眼でしか見ない人々などを対比させながら、人間の偽善性などを問う衝撃作として人気を呼んだ。(東宝東和配給)
優秀賞チャンス


ワシントンの古い屋敷で、ある朝突然に主人が死んだ。一人残された年老いた庭師は、なんと数十年間、外に出たことがない男だった。俗世界を知らない彼の言葉が富豪に気に入られ、いつの間にか大統領にまでされてしまうという第一級の風刺劇。ピー夕-・セラーズの遺作になったが、その抑制された静の演技が見ものだった。(松竹=富士映画配給)
優秀賞普通の人々


一見、平和に見える家庭内に内包された癒し難い人間関係の陥穽を描いた問題作。シカゴ在住の弁護士には妻と一人息子がいて、仲睦じく見えたが、実はその子の兄はボートで溺死したのだ。一緒に乗っていて生き残った次男と妻との深い心の裂目、夫婦の不信感を監督第一作のロバート・レッドフォードが鋭く抉り出している。(パラマウント=CIC配給)
新人俳優賞
優秀賞佐藤浩市(青春の門)


五木寛之のライフワークともいうべきベストセラー小説「青春の門」の東映映画化作品で、主人公の伊吹信介役で彗星のようにデビュ-した大型新人。名優三國連太郎の長男とあって、素質も度胸も充分だが、本人は“親の七光り”といわれるのを嫌い、俺は俺の精神でがんばるそうだ。今「青春の門」第2弾が公開中だ。(東京都出身)
優秀賞真田広之(魔界転生/吼えろ鉄拳/冒険者カミカゼ)


千葉真一の秘蔵っ子として育てられて、今や若きアクションヒーローとしてギャルの人気を集めている。「百地三太夫」で初主演を果たし、「魔界転生」「吼えろ鉄拳」「冒険者カミカゼ」と続き、1982年新春には「燃える勇者」主演とノッテいる。2l才の若さに無限の可能性を秘めているがアクションに演技力が加われば鬼に鉄棒だ。(東京都出身)
優秀賞中井貴一(連合艦隊)


東宝の戦争大作「連合艦隊」でデビューし、ひときわフレッシュさを感じさせる新人だ。昭和39年夏、交通事故死した往年の二枚目スタ-、佐田啓二の忘れがたみとしての血筋のよさと、親ゆずりの端正な顔立ちが将来を楽しみにさせる。海軍特攻隊員に扮したりりしさが印象的だった。尚、姉の貴惠も人気女優で同作で共演している。(東京都出身)
優秀賞石田えり(遠雷)


もともとは歌手志望だったが、4 年程前に「翼は心につけて」という映画に主演。今回「遠雷」で演技者として本格デビューを飾った期待の新人。大胆なヌードシーンや、永島敏行を相手に思いきったベッドシーンも演じたが、明るくおおらかな存在感が健康的な魅力となってスクリーンにはじけ飛んだ。1982年がとても楽しみだ。(熊本県出身)
優秀賞かとうかずこ(なんとなくクリスタル)


学生時代、つかこうへい劇団の公演を友人と見に行き、「サロメ」に抜擢されたラッキ-ガール。タバコのCMで一躍脚光を浴び、「なんとなくクリスタル」で映画初登場。流行語にもなったクリスタル族のシティギャルを演じて、瑞々しい演技を見せてくれた。クールな都会派として成長株だ。(愛知県出身)
優秀賞田中裕子(ええじゃないか/北斎漫画)


早大の演劇部を卒業して、文学座の研究生になった秋にN H K「マー姉ちゃん」に合格し、一躍茶の間の人気者になったが、映画「ええじゃないか」「北斎漫画」などでは思いきりのいい演技で注目を浴びた。演じて楽しかったという感情を大切にしたいという彼女、「北斎漫画」のお栄の役はその点とても面白かったそうだ。(大阪府出身)
話題賞

作品部門:「セーラー服と機関銃」


俳優部門:薬師丸ひろ子(「セーラー服と機関銃」)