第6回日本アカデミー賞優秀作品一覧に戻る
日時: 1983(平成-5)年2月17日(木)
場所: 東京プリンスホテル
司会: 山城新伍/石田えり

優秀作品賞
最優秀賞/優秀賞
(C)松竹(株)

最優秀作品賞 「蒲田行進曲」


つかこうへいの舞台劇を深作欣二監督が確かな演出と軽快なテンポで描いた作品。人のよい大部屋役者と自意識過剰の二枚目スター、そしてその情婦等、映画に情熱を賭ける人々が撮影所を中心に繰り広げる涙と笑いの人生模様。つか劇団の平田満と風間杜夫が息の合ったエネルギッシュな演技を見せ、松坂慶子も好演。(松竹=角川春樹事務所)

優秀作品賞 「鬼龍院花子の生涯」


豪放で一本気な土佐の侠客・鬼龍院政五郎と、その本妻、妾達、娘・花子らがたどる運命を、ひとり堅気な人生を送ろうとした養女・松恵の目を通して描く。直木賞作家宮尾登美子の原作を、抜群の構成と、女優陣の競演などにより、艶を感じさせる映画ならではの世界に、再構築した秀作。米国アカデミ-賞の日本代表作に選ばれている。(東映=俳優座映画放送)

優秀作品賞 「疑惑」


海中に転落した自動車からかすり傷ひとつ負わすに救出された女。同乗していた夫は死亡した。「悪女」と噂されるこの女は果たして財産目当ての犯行に及んだのか?やり手の女弁護士に勝算は?桃井かおりと岩下志麻の共演が話題を呼んだ、原作松本清張、監督野村芳太郎のスリリングな作品。松本清張自ら脚色に参加している。(松竹=霧プロ)

優秀作品賞 「未完の対局」


日中国交正常化10周年を記念した初の本格的日中合作映画。日本と中国の名棋士の運命的な出会いから、日中戦争をはさんで再会するまでを描く。 2 人の子供の間に生まれる愛の悲劇などが織り込まれる。門外不出と言われた日中戦争当時の中国側記録フィルムも使用、解放軍の全面協力を得るなど、見どころの多い大作。(「未完の対局」製作委員会=東光徳間)

優秀作品賞 「誘拐報道」


新聞記者たちが取材した実際の誘拐事件のドキュメントを映画化した作品。誘拐された子供の両親、犯人家族、捜査陣、取材陣らが織り成す苦悩と焦燥の現実ドラマを張りつめたリアリズム演出で描き切る。映画初出演の小柳ルミ子が好演。監督は「犬神の悪霊」以来5年ぶりの伊藤俊也。サスペンスフルな快作である。(東映=日本テレビ)
優秀監督賞
最優秀賞深作欣二(蒲田行進曲/道頓堀川)


「仁義なき戦い」シリーズに代表されるように、骨太の男のドラマを手がけてきた深作欣二が昨年監督したのは、ネオン街を舞台に様々な愛憎がからみ合う群像ドラマ「道頓堀川」、映画界に生きる人々を涙と笑いのうちに軽妙に描く舞台劇の映画化「蒲田行進曲」だった。この2つの作品の充実ぶりが、演出家としての別の面を引き出した1年だった。(昭和 5年 茨城県)
優秀賞伊藤俊也(誘拐報道)


「犬神の悪霊」以来5年振りにメガホンを取った「誘拐報道」ではリアリズム演出を貫き,全篇に緊張感を持続させた。様式美をもって描かれたかつての名作「さそり」シリーズとは対称的な面を見せたが、映画から遠ざかっている間、TV報道スペシャルで見せた手腕を考えれば、それもうなづける。新しい伊藤映画には、5年間の試行錯誤が結実していた。(昭和12年 福井県)
優秀賞五社英雄(鬼龍院花子の生涯)


3年振りの「鬼龍院花子の生涯」は、見せる演出が存分に発揮されていて画面から眼を離せない。鬼龍院政五郎をとりまく女達を描き分け、それぞれの女優から独自の魅力を引き出した手腕も鮮やかだが、硬派の任侠の世界と、語り部たる養女の堅気ぶりとをぶつけあい融合させて、この作品に特有の肌ざわりを持たせたのは見事という他ない。(昭和4年 東京都)
優秀賞野村芳太郎(疑惑)


「張込み」「ゼロの焦点」「砂の器」等々、松本清張作品はこの人のバラエティに富む作品歴の中でもひときわ目立つ。「疑惑」は「すべてをガラリと変える」という意気込みで、徹底した悪女ものになった。法廷シーンの緊張と笑いのタイミング、小気味よいテンポのカット割、ストーリー上も演出上も無駄がなく、その上手さには頭が下がる。(大正 8年 京都府)
優秀賞柳町光男(さらば愛しき大地)


自身の出身地、茨城県鹿島地方を舞台にした「さらば愛しき大地」は、2年を費やしたオリジナル脚本による力作だ。「ブラックエンペラー」「十九歳の地図」といったその作品歴を見ても、自分自身の表現をつかみとろうとするこの監督の真摯な姿勢をうかがうことができる。徹底したリアリズム描写が、演出家としての成長も物語っていた。(昭和20年 茨城県)
優秀脚本賞
最優秀賞つかこうへい(蒲田行進曲)


直木賞を受けた、自身の原作「蒲田行進曲」を脚色、映画に情熱を賭ける人達を描いたこの物語で、映画界に乗り出した。他の何ものでもない「蒲田行進曲」という一つの世界を構築して、見事である。「熱海殺人事件」「いつも心に太陽を」などの傑作舞台劇を生んだつか劇団を解散、TVドラマを初演出するなど、昨年は話題が絶えなかった。(昭和23年 福岡県)
優秀賞笠原和夫(大日本帝国)


「二百三高地」に続いて舛田利雄監督と組んだ大作「大日本帝国」。国家の成員としての国民と、個としての人間との間に生ずる問題を取り上げて、確かな訴求力あるドラマを組み立てた。「胃袋をとる程の大手術」をはさみ、9ヶ月に渡って書きあげたその気力が、生きることを必死に掴み取ろうとした人物像にダブッてくる。(昭和 2年 東京都)
優秀賞高田宏治(鬼龍院花子の生涯/青春の門・自立篇)


「緋牡丹博徒」「仁義なき戦い・完結編」等で、独特のロマンが感じられる作風を築いてきたが、「鬼龍院花子の生涯」には、その持てる才能が存分に発揮されている。原作を改変し新たに創造されたシーンやセリフが、映画的なまとまりを与え、心にくい見せ場を作り出して見事だ。原作では1ページにも満たない、松恵が骨壷から骨を取るシーンが白眉。(昭和 9年 大阪府)
優秀賞古田求/野村芳太郎(疑惑)


勢いのよいドラマ運びと生き生きしたセリフがテンポあるドラマを構築した「疑惑」。新進気鋭古田求とベテラン野村芳太郎による、余分な思い入れを排したダイナミックな構造が、脚本化の中で生まれた2人の激しい性格の女に圧倒的な迫力を生じさせている。原作の元になった実際の保険金殺人事件に取材し、短編をふくらましたその手腕は鮮やかだ。(昭和22年 佐賀県)(大正8年 京都府)
優秀賞松田寛夫(誘拐報道)


新聞記者達の手になるドキュメントを原作にしながら、そこには書かれなかった犯人側の描写に力点を置いた点が出色の「誘拐報道」。犯人像はもとより、その一家の描写に味わい深い細やかさがあった。かつて「さそり」シリーズという傑作をものした伊藤俊也監督とのコンビが、趣きをかえてドキュメンタリータッチでまた名作を作り上げた。(昭和 8年 京都府)
優秀主演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞平田満(蒲田行進曲)


昨年いっぱいで解散したつかこうへい劇団生え抜きの個性派。つか芝居の映画化「蒲田行進曲」のヤス役は昨年の映画界に新鮮な驚きを与えてくれた。うだつはあがらないが、どこまでも人のいい大部屋俳優、その卑屈ぶりと後半の毅然たる居直りぶりが笑いと涙をさそった。何ともはやバイタリティ溢れる若手演技派が登場したものである。(愛知県出身)
優秀賞武田鉄矢(刑事物語/えきすとら)


去年は鉄矢にとってこれまでにない変革の年だった。「海援隊」を解散し、 10年あまり連れそった仲間と別れたのだ。さよならコンサートツアーや、TVドラマ出演、映画では「えきすとら」、自身の長い間の企画だった「刑事物語」に主演。めまぐるしい1年だった。男の優しさと素朴さを持った味のある人物を演じてその右に出るものはない。(福岡県出身)
優秀賞仲代達矢(鬼龍院花子の生涯)


奔放で一本気な性格ゆえに、その言動行動が滑稽にすら見えてくる土佐の侠客、鬼龍院政五郎には、この人の大きな演技以外は考えられないほどだ。五社英雄監督とは「御用金」「人斬り」など、娯楽時代劇の快作でおなじみだが、久し振りの顔合わせで、文芸味もある仁侠もの「鬼龍院花子の生涯」に味のある仲代調を見せて、観る者の舌を巻かせた。(東京都出身)
優秀賞根津甚八(さらば愛しき大地/この子の七つのお祝いに)


屈折した青春像をこれほど内省的な力を感じさせながら演じてしまう俳優も希有である。かつて大学を中退してまでほれこんで入団した状況劇場での暗い二枚目役はすでに語り草だが、そのアウトロー的存在感は「さらば愛しき大地」でも観る者の心を揺さぶった。徹底したリアリズム演出に答えたその説得力ある演技が素晴しかった。(山梨県出身)
優秀賞萩原健一(誘拐報道)


「誘拐報道」の犯人役は演技者として、その芸を深める布石となるだろう。グループ・サウンズ・ブームの寵児も今や、様々な役を演じ分ける役者に育ちつつある。内職をやるしっかり者の妻に頭の上がらない小心な夫という役柄はこれまでとは一味も二味も違うショーケンを感じさせた。これからが俳優としての勝負どころとなるだろう。(埼玉県出身)
優秀主演女優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞松坂慶子(蒲田行進曲/道頓堀川)


「蒲田行進曲」では元売れない女優、「道頓堀川」では小料理屋のママと、けなげでかわいい女に磨きのかかった演技と美しさをみせてくれた。どちらも深作欣二監督作品。新しい監督=女優コンビの誕生か。一昨年にひきつづいて昨年も、まさに映画界を代表する女優であった。TVでもCMドラマと活躍が続き、その人気はとどまるところを知らない。(東京都出身)
優秀賞いしだあゆみ(野獣刑事/男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋)


「野獣刑事」では、主人公の刑事がかつて逮捕した男から奪い取った情婦役、そして「男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋」では寅さんに想いを寄せながらその想いを打ち明けぬうちに去って行く未亡人役と、対照的なタイプの作品で、円熟した演技を見せてくれた。「野獣刑事」の不安定な心の女に、この人ならではの魅力があった。(大阪府出身)
優秀賞田中裕子(ザ・レイプ)


映画出演の度に芸域を拡げていく感がある人だ。一昨年「ええじゃないか」「北斎漫画」と時代劇が続いたが、昨年は一転、キャリアウーマンをレイプという事件の渦中にとらえるという今日的なテーマの「ザ・レイプ」で、過去の男性関係やプライバシーを公にされ、恋人を失ってまでも、自己の信念をあくまで貫き通す現代女性を好演。(大阪府出身)
優秀賞夏目雅子(鬼龍院花子の生涯)


侠客一家ただ一人の堅気な養女、松恵。ギラギラした激しい性格の登場人物に囲まれて、独り細やかな感情と内に秘められた力強さを持つ女を、艶も清楚さも感じさせつつ演じ切った「鬼龍院花子の生涯」は女優として忘れられぬ代表作となるだろう。骨壷から夫の骨を盗り、タンカをきる凛とした姿と表情と声音に頼もしさすら感じさせてくれた。(東京都出身)
優秀賞桃井かおり(疑惑/青春の門・自立篇)


スターとしてはマイナス要因に成りかねないと、初めは尻込みした「嫌な性格」の女・鬼塚球磨子を見事演じた「疑惑」は、女優生命を賭けた作品とも言える。法廷場面での物怖じしないセリフ廻しが絶妙で、初顔合わせのベテラン岩下志麻の女弁護士とのやり取りも画面を引き締めた。女優としてさらに大きくなった1982年だったといえよう。(東京都出身)
優秀助演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞風間杜夫(蒲田行進曲)


映画歴は長く、子役にまで遡る。昨年の「蒲田行進曲」では、情熱的で純粋で利己的な落ち目の二枚目俳優銀四郎をエネルギッシュに演じ、ついに本領発揮の生き生きとした魅力に溢れていた。昭和51年からつかこうへい劇団に参加。数々のつか芝居に出演、舞台でも銀四郎を演じている。TVドラマでも活躍、広く人気を得ている。(東京都出身)
優秀賞あおい 輝彦(大日本帝国)


オールスターキャストの大作「大日本帝国」で元床屋の兵士を演じた。国家権力が音頭をとった戦争の中で、初めはごく普通に戦場で散っていくはずだった男が、生きること愛することを、必死の思いで掴みとろうとするようになる。その成長に、俳優としての成長も重なって、かつてのアイドルは、これからがますます楽しみな存在となってきた。(東京都出身)
優秀賞泉谷しげる(赤い帽子の女/野獣刑事)


「赤い帽子の女」では“私”をドイツへ誘う先輩の役。頽廃したミュンヘンの街で遊蕩の限りをつくし、自殺してしまう。「野獣刑事」では囚えられた刑事に女も取られた犯罪人。出所しても覚せい剤に手を出し、最後は無差別殺人に突っ走る。昨年も癖の強い人物像で気をはいた。TV出演、映画監督、ロック、イラストと八面六臂の活躍が続いている。(東京都出身)
優秀賞柄本明(疑惑/道頓堀川/男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋/セーラー服と機関銃)


ヌーボーとした顔立ちで、どこかユーモラスな、それでいて暗さも合わせ持つ独特の個性が、TV、映画、舞台と引っぱりだこの昨今だ。「セーラー服と機関銃」のしたたかな汚職刑事、「道頓堀川」では、両刀使いで男泣かせの恐持ての幇間、「疑惑」では、汚ない掛け引きも辞さないやり手新聞記者を演じ、その存在は強く印象づけられた。(東京都出身)
優秀賞鹿賀丈史(疑惑)


息づまる法廷場面が続く中、人を食ったような証言で、厳粛なる法廷をかき乱してしまう詐欺師。「疑惑」ではひたすら軽薄な日和見主義のチンピラに徹して、舞台仕込みの達者なところを見せた。前言を翻し、逆に検察側に食ってかかるあたりは、何か壮快な気分にすらさせてくれる。桃井かおりとのからみも傑作だった。(石川県出身)
優秀助演女優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞小柳ルミ子(誘拐報道)


昨年「誘拐報道」で犯人の妻役に抜擢され、堂々の映画初出演を果した。タレントとしてすでに茶の間の人気は定着しているが、内職で生計を立てる一児の母を、生活感豊かに演じ切るとは、誰もが予測しなかったことである。大きな可能性を秘めた女優が誕生したものだ。押さえた演技の中に並々ならぬ力量がうかがえた。今後の映画出演が注目される。(福岡県出身)
優秀賞秋吉久美子(誘拐報道/制覇/凶弾)


「誘拐報道」では誘拐された少年の母親、「制覇」ではヤクザ同志の軋轢の中で自殺する首領一家の嫁、「凶弾」ではシージャック犯人の姉、「さらば愛しき大地」では覚せい剤が手離せない主人公に刺し殺されるその情婦。様々な作品で人生の悲しさを背負ったような女を演じ、実在感に溢れる独得の持ち味を生かしていた。(静岡県出身)
優秀賞加賀まりこ(道頓堀川/ダイヤモンドは傷つかない)


元撞球師の過去を知っているビリヤート屋の女将。酒と女の日々を送る中年教師の愛人。「道頓堀川」「ダイヤモンドは傷つかない」で、昨年もまた人間ドラマの要を握る女を演じ、その作品を引き締めていた。円熟した艶と安定した演技は、どの映画に出てきても、効果的な役柄を際立たせ、印象づける。中堅演技派としての貫録さえうかがえる昨今だ。(東京都出身)
優秀賞中井貴惠(あゝ野麦峠・新緑篇/制覇)


弟の貴一共々、人気も演技も上昇中。往年の二枚目スター佐田啓二の忘れがたみというレッテルから飛び立ちつつある。昨年も「あゝ野麦峠新緑篇」「制覇」2つの大作で、数多い出演者の中、製糸工場を見限って去る女工役、カンボジア難民の救済事業で日本を去る首領一家の長女と、芯のある演技がひときわ印象的だった。(東京都出身)
優秀賞山口美也子(さらば愛しき大地)


「さらば愛しき大地」で演じた主人公の妻は、夫が酒を飲んで乱暴しても、家出して愛人の元にはしっても、愛人を殺して警察に捕まっても、また、二人の子供が死んでしまっても、因習の中に棲息し、そこから出て来ようとはしない。この土臭い体臭を持った農家の嫁を実在感たっぷりに演じ、にじみ出てくるような味わいをみせた。(大阪府出身)
優秀音楽賞
最優秀賞甲斐正人(蒲田行進曲)


レコードアルバムの編曲、歌謡番組の音楽担当、TVCMの作曲、そして1978年には東京キッドブラザース武道館公演の音楽担当と、様々な分野で頭角を現わしてきた新進気鋭の作曲家。昨年は「蒲田行進曲」でついに映画音楽にも進出し、形破りなこの作品で器用なところを見せている。これからも、映画音楽での活躍を期待したい。(昭和26年 東京都)
優秀賞芥川也寸志(疑惑/幻の湖)


映画音楽歴は長い。野村芳太郎監督作品にもいい仕事を残している。「砂の器」「八つ墓村」など荘麗なオーケストレーションの作品が印象に残るが、「疑惑」では演技のぶつかり合いを助ける形で「悪女ものの集大成にする」という野村監督の意気込みを汲んだ、効果的な音楽をつけていた。前者の荘麗さはむしろ橋本忍の「幻の湖」に受けつがれている。※芥川氏の受賞対象作品のうち「疑惑」は毛利蔵人氏と共同著作でありますが、芥川氏は「幻の湖」を加えた2作品合計の票数により受賞されるものであります。(大正14年 東京都)
優秀賞菅野光亮(鬼龍院花子の生涯)


任侠ものは初めてで、メロディーづくりに苦労したという「鬼龍院花子の生涯」。音楽が前面に押し出された代表作「砂の器」と対照的に、五社監督の注文に答え、よく吟味された音楽で作品をささえていた。人力車が走る冒頭では、力のある表現をする為に、楽器編成に気を使うなど、苦労のあとがうかがえる。ただものでない仁侠映画音楽となった。(昭和14年 東京都)
優秀賞菊池俊輔(誘拐報道/青春の門・自立篇)


1OO本以上の映画音楽を手掛けているベテラン。昨年は、以前「さそり」シリーズで顔を合わせている伊藤俊也監督の「誘拐報道」で、谷川俊太郎の詞に淋しげなメロディーをつけ、異色な傑作主題歌をものにしている。オーディションに苦労して、子供に歌わせたアイディアが良く、不安定なその歌唱が、不思議なムードを醸し出して秀逸だった。(昭和 6年 青森県)
優秀賞山本直純(男はつらいよ 寅次郎あじさいの恋/大日本帝国/制覇)


「男はつらいよ」シリーズでの肩のこらないムードづくりを音楽面でささえてきたのがこの人だ。昨年も「あじさいの恋」で手慣れた仕事ぶりを聞かせたが、一方大作と取り組んでの重厚な映画音楽づくりにも冴をみせてくれる。「二百三高地」はそんな作品の一つだが、昨年は「大日本帝国」「制覇」の2本をこなし、エネルギッシュな活躍ぶりだった。(昭和 7年 東京都)
優秀撮影賞
最優秀賞姫田真左久(誘拐報道)


誘拐シーンのハイスピード撮影、意表をついた水中撮影、白くとんだ背景に、誘拐される少年のシルエットが浮かびあがる画面など、工夫を凝らした「誘拐報道」。冬の日本海ロケは厳しい気象に左右されて、苦労が絶えなかったようだ。硬質の画面づくりが実話の重味と張りつめた空気を表現し、リアリティ溢れるこの作品を決定づけている。(大正 5年 兵庫県)
優秀賞川又昂(疑惑/道頓堀川)


「五瓣の椿」「影の車」「砂の器」など野村芳太郎監督とのコンビが生んだ傑作は数知れない。女性を美しく撮ることでは定評があるが、今回の「疑惑」ではむしろそれを避け、芝居をじっくり撮ったという。岩下志麻、桃井かおりの火花散る演技の対決が生きたのもそのおかげ。「道頓堀川」でも人間の生き様を着実にとらえていた。(大正15年 茨城県)
優秀賞北坂清(蒲田行進曲)


「蒲田行進曲」は映画撮影所を舞台にした、舞台劇の映画化。時代劇あり現代アクションあり、現実的な画面から舞台の雰囲気そのままの画面ありと、様々なシーンが次々に飛び出してくる。それを鮮やかにこなした手腕は確かである。幻想的な結婚シーンや、雪降る撮影所の外に腹の大きな小夏がたたずむシーンなど美しいカメラ・ワークだった。(昭和17年 京都府)
優秀賞木村大作(海峡)


「八甲田山」「復活の日「駅」とこのところ寒冷の地での仕事が続いていたが、昨年の「海峡」は青函トンネルが舞台と、また厳しい寒さの中での撮影に挑んでいる。硬質の色調で、大自然の美しさと厳しさをとらえた映像。トンネル工事現場での丁寧なディテール描写など、作品の持つ清澄な空気を伝える映像が素晴らしかった。(昭和14年 東京都)
優秀賞森田富士郎(鬼龍院花子の生涯)


熱気と殺気が伝わってくるような闘犬場のシーン、瀕死の床にある本妻が三味線をつまびくシーン、そして松恵がタンカをきるシーン等々、「鬼龍院花子の生涯」は絵になる場面の積み重ねだった。艶やかな色彩と、渋めの色彩、愛憎のぶつかり合う動きの場面と、構図にはまった場面、どぎついまでのトーンと淡いトーンの同居した映像が美しかった。(昭和 2年 京都府)
優秀照明賞
最優秀賞山口利雄(誘拐報道)


「誘拐報道」の硬調な画面づくりを助けたのはこの人だ。リアリティーに富んだ照明は、現実ドラマだけが持つ作りものでない雰囲気を維持した。また、陰影深いコントラストをつけた画面はサスペンスフルなムードを盛りあげ、作品全体を引き締めている。「白昼の死角」などでもみせた鋭い感覚が見る者を緊張させた。(昭和10年 神奈川県)
優秀賞小林松太郎(疑惑/道頓堀川)


「道頓堀川」は歓楽街が舞台の群像ドラマ。スナック、ゲイバー、飲み屋、ビリヤード場と、雰囲気を大切にする場では光の演出が欠かせない。的確な表現が歓楽街に生きる人々の生き様を照らし出した。また、「疑惑」は「八つ墓村」「真夜中の招待状」に続く野村芳太郎監督作品。演技を見せることに徹した法廷場面での、手堅い仕事ぶりが素晴らしかった。(昭和12年 神奈川県)
優秀賞海地栄(蒲田行進曲)


荒唐無稽な舞台劇の映画化「蒲田行進曲」では、照明そのものもドラマを演出してしまう。特に、演劇的な照明の処理で目をみはらされた結婚シーンへの転換は幻想味もあって出色。病室からそのあとのドンデン返しにつなげたラストでは、現実場面と思わせる照明がなければ、ドンテン返しにはならなかったところ。照明効果の果した役割は大きかった。(昭和11年 鳥取県)
優秀賞望月英樹(海峡)


青函トンネルをめぐって、三人の男の想いが交錯する「海峡」。トンネル工事現場という独特の光に照らし出された場を見事に再現していた。「復活の日」「駅」に続いて、撮影の木村大作とのコンビで、再び寒さと戦う厳しい仕事になった。寒々とした戸外、暖かみのある室内、その描き分けも、照明に負うところ大だった。(昭和12年 東京都)
優秀賞増田悦章(鬼龍院花子の生涯)


鬼龍院家を逃げた弟の姿が暗い路地に影を投げかけるシーン、どこか厳しさの漂う鬼龍院家の雰囲気、夜の殴り込みで暗闇にきらめく刀。そして、冒頭とラストで、過去への想いに松恵を包みこむかのような柔らかな光。「鬼龍院花子の生涯」に名場面は数多いが、どの場面にも、照明の念入りな仕事の成果を見ることができる。(昭和 6年 京都府)
優秀美術賞
最優秀賞西岡善信(鬼龍院花子の生涯/怪異談生きてゐる小平次)


「鬼龍院花子の生涯」は大正から昭和にかけての侠客を主人公にした話。「怪異談生きてゐる小平次」は役者と囃子方とその女房だけで描かれる時代もの。どちらも様式美を大切にする映画であるだけに、美術は作品の成否を握る重要な要素だった。鬼龍院家内外、小平次らが住む裏長屋など、着実な仕上がりを見せ、印象的な画面をささえていた。(大正10年 奈良県)
優秀賞今村力(誘拐報道)


生活感が色濃くにじみ出ていた犯人の家庭の描写。それが「誘拐報道」を単なる実話ものを乗り越えて傑作にした大きな要因の一つである。そして、それをささえたのが、家庭の外観を念入りに作り上げた美術であった。その他、雑然としたムードを的確にとらえた新聞社、海のそばの堀立小屋など、リアリティ溢れるディテールがこの作品を盛り立てた。(昭和18年 東京都)
優秀賞北川弘(大日本帝国)


代表作に「裸の太陽」「大地の侍」「二百三高地」などがある。昨年の「大日本帝国」は、日本人にとって太平洋戦争とは何であったのか、大日本帝国という国号の意味するものは何であったのかを世に問う作品。失われた時代を再現し、見る者に追体験させる上で、美術の果した役割は大きかった。また、重厚な雰囲気づくりにも貢献した。(大正 13年 京都府)
優秀賞木村威夫(未完の対局/ユッコの贈りもの)


「ツィゴイネルワイゼン」や「日本の熱い日日謀殺・下山事件」での徹底した仕事ぶりが記憶に新しい。昨年もまた「未完の対局」と「ユッコの贈りもの」にベテランらしい着実な美術を見せてくれた。「未完の対局」では、終戦後の闇市を再現した、凝りに凝ったオープンセットが印象的だ。また、「ユッコの贈りもの」では、現実のドラマの再現に貢献した。(大正 7年 東京都)
優秀賞高橋章(蒲田行進曲/野獣刑事)


「蒲田行進曲」では美術が大いに活躍した。撮影所が舞台とあって、時代劇から現実の部分まで場面は様々。その美術もバラエティに富んでいた。しかも、ドラマの軸になっていたのは巨大な階段のセット。これは、笑いを誘う怪セットだった。下宿とマンションとの対比も面白かった。一転して「野獣刑事」の生活感あふれるセットにもうならされた。(昭和13年 満州)
優秀録音賞
最優秀賞紅谷愃一(海峡/セーラー服と機関銃)


「海峡」では海底トンネルの工事現場が実によく再現されていたが、その再現性に大きく貢献したのが、工事現場に特有の様々な音だった。また荒唐無稽な異色作「セーラー服と機関銃」でも、みずみずしい画面やセリフ廻しを助け、着実な仕事ぶりを見せた。最後の殴り込みで聞かせた機関銃の音は、この映画になくてはならない陶酔の音である。(昭和 6年 京都府)
優秀賞荒川輝彦(蒲田行進曲/燃える勇者)


「蒲田行進曲」には刀の合わさる音から銃を撃つ音まで、様々な音が集合していた。撮影所内の活気に満ちた音の数々が、この作品のエネルギッシュな展開を盛り上げた。また、「燃える勇者」はアクションシーンがふんだんに入った作品。迫力あるシーンを作る上で、音はなくてはならない存在だ。ここでも、この人の仕事が生きていた。(昭和10年 京都府)
優秀賞林鑛一(誘拐報道)


リアリズム演出と硬めの画調で、全篇に緊迫感を貫ぬいた「誘拐報道」。忘れてはならないのが、臨場感溢れる音作りが、サスペンスフルな雰囲気をいやが上にも高めていたことだ。電話のベル、息の音、電車の音など、何気ない日常の音すら、何か戦慄させる音に変わってしまう。念入りな仕事でドキュメンタリー・タッチをささえていた。(昭和10年 東京都)
優秀賞原田真一/松本隆司(疑惑/道頓堀川)


「道頓堀川」の様々な人間ドラマはビリヤード場を中心に廻っていく。玉を突く静かな音が、人を虜にするその魅力を伝え、ビリヤード場特有のムードを醸し出す。ラストのサイレンの音も余韻を残し、効果的だった。蝉の声にはじまった「疑惑」では、フラッシュの音やタイヤのきしる音などが緊迫感を高めて印象に残る。(昭和14年 神奈川県) (昭和 3年 東京都)
優秀賞平井清重(鬼龍院花子の生涯)


任侠ものの張りつめたトーンを表現するには、丁寧な音づくりが必須である。登場人物達のはくセリフには、強い響きが聞きとれなくてはならないし、足音や着物のすれる音も重要なファクターとなる。「鬼龍院花子の生涯」では、静と動の激しい振幅を表現する上でも、音は欠くことのできない要素であった。行き届いた仕事ぶりを聞かせてくれた。(昭和16年 滋賀県)
優秀外国作品賞
最優秀賞E.T.


地球にとり残された異星人と少年達との交流を描いた心暖まるファンタジー。ディズニーが大好きだという監督スピルバーグが卓抜な特撮技術や、職人芸的手際よさを発揮し、現代人に失われた愛を語る作品としてまとめあげた。本国では空前の大ヒット。我が国でも1982年度後半の洋画界の話題を独占し、そのブームは社会現象にまでなった。(CIC)
優秀賞黄昏


ある老夫婦をめぐって起こる老化問題や親子、世代間の問題が、美しい湖畔の別荘を舞台に、ユーモアを交えて語られる。原作は舞台劇。娘役のジェーン・フォンダが実父ヘンリーの為に映画化を思い立ったという。フォンダ父娘の実生活を彷彿させると話題になった。この作品でヘンリー・フォンダは初の米国アカデミー賞主演男優賞を受けた。彼の遺作である。(CIC)
優秀賞炎のランナー


1924年パリ・オリンピックで金メダルを獲得した 2 人の若者の実話。人種問題や宗教の問題を乗り超えて、走ることに打ち込む若者の姿を美しく感動的に捉える。米英両国のアカデミー作品賞受賞。ヒュー・ハドソン監督は劇映画初演出だが、コマーシャルやドキュメンタリーで鍛えられた新鮮な画面作りで、地味だが躍動感のある作品に仕上げた。(FOX)
優秀賞Uボート


第二次世界大戦で、連合軍を脅かす存在となったドイツ軍潜水艦「Uボート」を舞台に、若き乗組員の恐怖や孤独に満ちた艦内生活、そして、皮肉な運命を描く。ドイツ映画界がその持てる総力を結集した自信の大作である。緊迫のシーンとホッとさせるンーンの配合が秀逸。艦内の乱雑なディテール、巧みな特撮など、行き届いた演出で迫力ある秀作となった。(ヘラルド)
優秀賞ロッキー3


シルベスター・スタローンの才能を世に知らしめ、その人気を決定づけた「ロッキー」シリーズの 3作目。チャンピオンとなり、安定した生活を送るロッキー、そこに現われたのはかつてのロッキーのようにハングリーな闘争心を持った男、ミスターTだった。勝利に向かって、再びロッキーの果てしれぬ戦いが始まる。エンターテイメントの一級品である。(ユナイト)
新人俳優賞
優秀賞石原良純(凶弾)


父に石原慎太郎、叔父に石原裕次郎を持つ血筋のよさ、そして精悍な上に甘味のあるそのマスクで、大型新人スターの誕生を予感させる。シージャック事件を素材にした「凶弾」の犯人役で鮮烈のデビュー。破滅へ突っ走る青春を演じた。「将来、俳優になるかどうかはわからない」そうだが、熱い期待に答えてほしいものだ。(神奈川県出身)
優秀賞尾美としのり(転校生)


女性的な男の人は大嫌いで、女の子の役をやると決まった時には、まるで自信がなかったという「転校生」だが、その言葉とは裏腹に、細かな仕種にも抜群の女らしさを表現して、共演の小林聡美に自分よりも女らしいと思わせた程だった。演技力の備わった若手の成長株として、今後の活躍を大いに期待したい。(東京都出身)
優秀賞平田満(蒲田行進曲)


「蒲田行進曲」のヤス役で、決定的にそのユニークな個性を日本中に知らしめた。つかこうへい劇団には学生時代から出入し、「戦争で死ねなかったお父さんのために」など、幾つもの舞台に立ち、その個性に輝きをかけてきた。最近は、TVドラマ、CMと大活躍が続いている。大いなる可能性を秘めた演技派登場だ。(愛知県出身)
優秀賞小林聡美(転校生)


ある日、男の子と女の子の体が入れ替わってしまった、というユニークな「転校生」で女の子の体になってしまった男の子を演じた。苦心した役づくりの成果が、共演の尾美としのりとの絶妙のコンビネーションを生んで、見事だった。芸能界デビューは「3年B組金八先生」の初代レギュラー。これからが楽しみだ。(東京都出身)
優秀賞田中美佐子(ダイヤモンドは傷つかない)


「ダイヤモンドは傷つかない」のヒロイン女子大生弓子で映画初出演。妻も愛人もある中年教師を愛してしまうという役どころで、揺れ動く若い心を好演した。真摯さが伝わってくるようなまなざしが美しい。藤田敏八監督の指導のもと、飾り気のない演技で印象深い。TVでも活躍している。(鳥取県出身)
優秀賞美保純(ピンクのカーテンシリーズ)


「ピンクのカーテン」シリーズなどの、あっけらかんとした脱ぎっぷりで、若者に絶大なる支持を集めている。その現代的な明るさで、昨年は、ドラマにバラエティー番組にとテレビでも大活躍。茶の間の人気をも獲得し、タレントとしても注目を浴びている。これからも、その健康的な裸身で、楽しませてほしいものだ。(静岡県出身)
特別賞
優秀賞森繁久彌(俳優)


昭和22年「女優」で映画初出演以来、数々の映画に出演。当協会の副会長を含め多くの要職につく映画界の重鎮。(大阪府)
優秀賞山田洋次


昭和37年「二階の他人」でデビュー。昭和44年「男はつらいよ」が人気となり、30作の邦画最長シリーズとなる。(昭和 6年 大阪府)
優秀賞渥美清


昭和36年に映画界へ入る。特に「男はつらいよ」シリーズでは主人公の“寅さん”を演じ、多くのファンを得る。(昭和3年 東京都)
優秀賞倍賞千恵子


昭和35年女優としてスタート。「下町の太陽」「男はつらいよ」「駅」で着々と女優としての地歩を固めた。(東京都)
話題賞

作品部門:「汚れた英雄」


俳優部門:E.T.(「E. T.」)