第8回日本アカデミー賞優秀作品一覧に戻る
日時: 1985(平成-3)年2月21日(木)
場所: 東京プリンスホテル
司会: 武田鉄矢/高倉美貴

優秀作品賞
最優秀賞/優秀賞
(C)伊丹プロダクション

最優秀作品賞 「お葬式」


突然の肉親の死に慌てふためく俳優夫婦が、なんとか無事お葬式を遂行する3日間の物語。義理の父の葬儀から着想を得たという、才人伊丹十三の第一回監督作品である。時に淡々と、時にユーモラスに展開するこの「お葬式」。抜群のキャスティングと、作者の人間洞察の確かさとが一体となり、社会の縮図ともいうべき人間喜劇として、出色の出来栄えを示した。(NCP=伊丹プロダクション)

優秀作品賞 「おはん」


名匠市川崑監督が、エロチシズムあふれる耽美的な映像の中に、女の情念と性とを浮き彫りにした作品。執筆に10年の歳月を費したという宇野千代の代表作をもとにしている。一途に耐え忍ぶ女おはんと、激しい気性の女おかよ。このふたりが、生活力こそないが心優しいひとりの男をめぐってぶつけ合う愛の形を、確かな演出力で描き切った。(東宝映画)

優秀作品賞 「瀬戸内少年野球団」


終戦直後の淡路島を舞台に、野球に打ち込む子どもたちと女性教師の、心暖まる交流を描く。混沌とした世相にもまれながらも、野球を通して夢と希望を取り戻そうとする。阿久悠の自伝的な小説を、篠田正浩監督が詩情豊かに映像化した。ベテラン揃いのスタッフ、個性豊かな演技陣。そして何よりも、少年少女を熱演した子どもたちの表情が素晴らしい。 (YOUの会=ヘラルド・エース)

優秀作品賞 「天国の駅」


吉永小百合が、殺人犯にして死刑囚という汚れ役に初めて挑んだ。脚本は、シナリオ界の重鎮早坂曉が、戦後初の女性死刑囚をモデルに、吉永を主役に想定して書き下した。監督は、「忍ぶ糸」など女性映画に定評ある出目昌伸。ひたすらに愛をもとめさすらう女の葛藤を、緊迫したストーリーの中に、哀切な叙情で綴り上げた作品である。(東映)

優秀作品賞 「麻雀放浪記」


終戦直後の東京の片隅で、賭博に生きる男たち。彼らの世界に流れ込み、自らも勝負師としての道を歩む若者と、彼を囲む様々な人間模様。阿佐田哲也の同名小説の映画化であり、イラストレーター和田誠の第一回監督作品である。モノクロ画面の本格映像表現は、新人監督とは思えない高い完成度を示し、第一級の娯楽作品に仕上った。(東映=角川春樹事務所)
優秀監督賞
最優秀賞伊丹十三(お葬式)


「私の目的はただ一つ。映画らしい映画を作りたい、ただそれだけです」とは、「お葬式」最影前の弁。果たして、日本映画界に、51歳の新人監督が誕生した。的確な人間描写の積み重ねと、抑制の利いた演出がもたらす、おおらかな人間臭さ。亡父伊丹万作から受け継いだ血は、映画作りに見事に結晶した。さらに「映画らしい映画」に期待したい。(昭和 8年 京都府)
優秀賞市川崑(おはん)


戦後の日本映画を、その才気あふれる斬新な映像感覚でリードし続けてきた。国際的な評価も高い、日本が誇る名匠である。「おはん」では、一昨年の「細雪」で完成した雅やかな格調美に加え、絢爛たる妖艶美を展開している。その現代感覚あふれる演出は、舞台設定である伝統的な世界を、男と女の情念が綾なす耽美的な夢幻世界にまで昇華している。(大正 4年 三重県)
優秀賞篠田正浩(瀬戸内少年野球団)


デビュー以来、実験精神に富んだ野心作を撮り続け、一作ごとに話題を呼ぶ、最もエネルギッシュな活動を展開している監督のひとりである。前作「悪霊島」に引き続き、「瀬戸内少年野球団」も瀬戸内海の島が舞台。原作の阿久悠氏とは同世代に属し、当時への思いを叙情的な映像で描き上げた。登場人物ひとりひとりへの深い愛情が、スクリーンを通して伝わってくる。(昭和 6年 岐阜県)
優秀賞深作欣二(上海バンスキング/里見八犬伝)


一昨年、「蒲田行進曲」で各賞を独占し、日本映画を席巻した深作監督。昨年メガホンをとったのは、幻想的な物語が華麗に繰り広げられる伝奇映画「里見八犬伝」と、昭和10年代の上海を舞台に、ジャズに青春を賭けた若者たちを描いた「上海バンスキング」の2本。異なるジャンルを的確に描き分け、シャープでダイナミックな演出で、その力量を遺憾なく発揮した。(昭和 5年 茨城県)
優秀賞和田誠(麻雀放浪記)


日本を代表するイラストレーターであり、映画評論、作曲などの分野でも活躍している。初めてメガホンを取った「麻雀放浪記」では、2000枚にも及ぶ絵コンテを用いた。モノクロフィルムを使ったその映画づくりは、まさに正当派。随所にシネ・フリークらしい凝り様を見せた。「自分が見たいと思う映画の集大成」と語る和田監督、まずは堂々のデビューである。(昭和11年 大阪府)
優秀脚本賞
最優秀賞伊丹十三(お葬式)


夫人・宮本信子の父の葬儀を執り行ないながら、「これはまるで映画だ」と直感し、約一週間で脚本を書き上げたという。緻密な人間描写、とぼけたユーモアと、そこはかとないペーソス、そして自然なセリフ回しなどが絶妙な効果を発揮。淡々とした展開の中に、様々な人間像を浮き彫りにしている。脚本に魅かれてこの仕事に参加した人も多い、というエピソードも頷ける。(昭和 8年 京都府)
優秀賞金子正次/川島透(チ・ン・ピ・ラ)


一昨年、評判を呼んだ「竜二」で、脚本と主演をこなし、その公開直後に他界した金子正次。彼の遺稿をもとに、「竜二」の監督川島透が改編し、再び映画化した作品が「チ・ン・ピ・ラ」である。渋谷を舞台に、競馬のノミ屋を生活の糧として、自由気ままに生きているふたりのチンピラの姿が、瑞々しいタッチで、軽妙に描き込まれている。(昭和24年 愛媛県)(昭和24年 福岡県)
優秀賞澤井信一郎/和田誠(麻雀放浪記)


澤井監督の「野菊の墓」を観た和田監督が、その力量を高く評価し、「麻雀放浪記」の脚本執筆に協力を仰いだという。勝負に生きる男たちの強烈な個性、その世界に次第にのめり込んでゆく“坊や哲”の姿、そして男たちの間で対照的な生き方をつらぬくふたりの女など…。正攻法のドラマには欠かせない、ツボを心得た人間描写で、映画の味わいを深めた。(昭和13年 静岡県)(昭和11年 大阪府)
優秀賞田村孟(瀬戸内少年野球団)


篠田監督等とともに、松竹ヌーベル・ヴァーグの旗手のひとりとして出発。脚本家に転じてからは、大島渚監督作品を数多く手がけてきたベテランである。「瀬戸内少年野球団」では、登場人物の多いストーリーを、メリハリの利いた展開で見事にまとめ上げた。原作の牧歌的世界を大切にしながらも、この人ならではの骨太さを感じさせるドラマとなっている。(昭和 8年 群馬県)
優秀賞早坂暁(空海/天国の駅)


テレビドラマで数々の傑作シナリオを生み出し、国内外で高い評価を受けている、日本シナリオ界の巨星である。この人は、いつでも人間の業を見つめ、哀しみと向い合う。最初から主役に吉永小百合を想定していたという「天国の駅」は、吉永の新たな魅力を引き出した。「空海」は、空海のドラマチックな生涯を描き上げるために、1年半が費されたという労作である。(昭和 4年 愛媛県)
優秀主演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞山崎努(お葬式/さらば箱舟)


「お葬式」の主人公のモデルは、伊丹十三自身であるが、映画を観ているうちに、、まるで山崎努の自作自演であるかのように思えてくる。精悍なマスクと裏腹のとぼけた表情が、何ともおかしい。うまい。この人ならではの味である。また、寺山修司の遺作となった「さらば箱舟」では、寓話的な題材に溶け込んだ、野生味あふれる演技を、観る人の心に焼きつけた。(千葉県出身)
優秀賞石坂浩二(おはん)


まったく対照的なふたりの女の間でゆれ動く男、幸吉。「おはん」の“鍵”となり、頼りなげに見えながらも女を魅きつけるというこの難しい役どころを、不思議な存在感を持って見事に演じ切った。市川崑監督とのコンビは「金田一耕助」シリーズ以来続き、一昨年の「細雪」でも、デリケートな男の心情をにじみ出させ、円熟した新たな魅力を印象づけた。(東京都出身)
優秀賞北大路欣也(空海)


ここ数年「八甲田山」「漂流」「南十字星」といった大作に出演。バイタリティあふれる演技には、いっそう磨きがかかり、その充実ぶりには目をみはるものがある。万能の天才、弘法大師空海の生涯を壮大なスケールで描いた「空海」では、自然体の演技で空海になり切り、揺るぎない“北大路空海”像をつくり上げた。(京都府出身)
優秀賞真田広之(彩り河/里見八犬伝/麻雀放浪記)


日本を代表する若手アクションスターとして、その将来が大いに期待される人である。「里見八犬伝」では、持ち前のダイナミックな演技で観客を魅了した。また、「彩り河」「麻雀放浪記」では、一転してデリケートな役を柔軟なセンスで演じ切り、役者としての才能の豊かさを印象づけた。彼にとっては、実りの多い一年であったといえよう。(東京都出身)
優秀賞時任三郎(海燕ジョーの奇跡/地平線)


初主演の映画「俺っちのウエディング」やテレビドラマでの、飾らないナイーブな存在感が評判を呼び、人気を集めている。「海燕ジョーの奇跡」では、ハードなヒーローを演じ、セクシィな新生面を見せてくれた。また、「地平線」では、激動する時代に流されてゆく日系二世の若者の心情を、骨太な演技で綴り上げた。(東京都出身)
優秀主演女優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞吉永小百合(おはん/天国の駅)


日本映画が生んだ最高のヒロインとして、20数年にわたり、その美を燦然と輝かせ続けている。昨年は、女優としての新境地を完成させた年として、長く記憶されるに違いない。殺人犯にして死刑囚という汚れ役に初めて挑んだ「天国の駅」。そして「おはん」では、女の情念を艶麗・妖美に熱演した。吉永小百合は今、新たな頂点へと向かっている。(東京都出身)
優秀賞夏目雅子(瀬戸内少年野球団)


化粧品のキャンペンガールとしてデビュー。以来、着実な成長ぶりを示し、「鬼龍院花子の生涯」「魚影の群れ」等の作品で、演技派女優として高い評価を得るに至った。「頼戸内少年野球団」のキャスティングの際、この人の駒子先生役だけは、すんなりその場で決まったという。その期待に応える充実した演技で、さらに一回り大きく成長したようだ。(東京都出身)
優秀賞藤谷美和子(海燕ジョーの奇跡/地平線)


TVCFで人気を集め、数多くのテレビドラマに出演。爽やかで誇張のない存在感で、幅広い層の人気を得た。「海燕ジョーの奇跡」では、ジョーの恋人役陽子に扮する。情熱的な女をエネルギッシュに演じ、大人のヒロインへの脱皮を目指した。また、「地平線」では、荒れた大地と闘う、逞しい移民女性を好演している。(東京都出身)
優秀賞松坂慶子(化粧/上海バンスキング)


日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を、1982・1983年と連続受賞。いまや、日本映画界を代表する女優のひとりである。「上海バンスキング」では、信じた男と奔放に生きたいと、ひたすら思い続ける歌姫を熱演。深作監督とのコンビが冴えわたった。また、「化粧」では、大人の女のしっとりした情感を込めた、艶やかな演技が印象深い。(東京都出身)
優秀賞宮本信子(お葬式)


夫・伊丹十三監督の作品「お葬式」で、彼女の役のモデルは、彼女自身である。かえって難しいこの役どころを、さりげなく演じながら、いつのまにか観客を「お葬式」の中に参列させてしまう。そのキメ細かな演技は、絶品である。夫の演出については、「お互いに人間性がよくわかっているわけだから、私としてはとても楽しい仕事でした」とか。(北海道出身)
優秀助演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞高品格(麻雀放浪記)


テレビの刑事物や時代劇等でおなじみの、ベテラン俳優である。「麻雀放浪記」の出目徳は、戦前からの雀ゴロ。坊や哲と組み、イカサマをやって稼ぐが、最後には雀卓を囲んだまま壮烈な死を遂げる。この人のつかみどころのない持ち味が生かされ、腹に一物あり気ながら、どこかで“抜いた”その演技は、まさにベテランの面目躍如といったところだ。(千葉県出身)
優秀賞字崎竜童(上海バンスキング)


「曽根崎心中」や「TATOO刺青あり」などで、役者としても強烈な個性を輝かせてきた。「上海バンスキング」では、本職のミュージシャン役に挑戦。バクチ好きなところから“バクマツ”と呼ばれる松本役を、エネルギッシュに演じている。舞台の上でトランペットを奏でる姿は、まさに水を得た魚。ノリにノったポーズが、ピタリと決まっていた。(京都府出身)
優秀賞鹿賀丈史(麻雀放浪記)


勝負の世界に生きる一匹狼であることを、自ら誇りとしている。しかし、どこかでそれを隠れミノにしているような脆さを垣間見せる。強さと弱さを合わせ持った「麻雀放浪記」のドサ健役は、主役に匹敵するほどの強烈なインパクトを、観客の心に刻みつけた。舞台出身の役者だけに、その演技力は確か。テレビでも活躍中である。(石川県出身)
優秀賞財津一郎(お葬式/蜜月)


喜劇俳優として息の長い活動を続け、「キビシィーッ」は、流行語にもなった。最近はシリアスな役も多く、役者として円熟したところを見せている。「お葬式」のマネージャー役は、三枚目的な役どころながら、抑えの利いた演技で大人の笑いを誘った。また「蜜月」では、一転して主人公の父親役を手堅く演じ上げ、作品に重みを加えている。(熊本県出身)
優秀賞西田敏行(天国の駅)


ユーモラスな持ち味と、シリアスな演技から歌までを自在にこなす芸域の広さで、お茶の間の絶大な指示を得ている。「悪魔が来たりて笛を吹く」の金田一耕助役で、映画初主演。1981年には、「北斎漫画」で実力を存分に発揮した。「天国の駅」では、ヒロインかよに無償の愛を捧げ続け、殺人まで犯してしまう知恵遅れの男ターボを力演している。(福島県出身)
優秀助演女優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞菅井きん(お葬式/必 殺!THE HISSATSU)


芸歴は長く、出演作の監督の名には、名匠・巨匠と呼ばれる監督たちが、キラ星のごとく並んでいる。普通のおばさんをそれらしく演じさせたら、今、この人の右に出る者はいない。「お葬式」のラストでの長い挨拶のシーンは、昨年の日本映画の中でも最高の演技のひとつといえよう。また、おなじみの「必殺!THE HISSATSU」の個性豊かな姑は、彼女の当り役である。(東京都出身)
優秀賞大竹しのぶ(麻雀放浪記)


1979年度の日本アカデミー賞では、最優秀主演・助演両女優賞独占という輝かしい実績をもつ。「麻雀放浪記」では、ドサ健に裏切られながらも、けなげに愛をつらぬき通す女、マユミを熱演した。幅広い芸域を持つ演技派女優だが、とりわけ、こういった一途で庶民的な女の役では、彼女ならではの光を放つ。若手女優の中でも、貴重な存在といえるだろう。(東京都出身)
優秀賞大原麗子(おはん)


この人が出演するTVドラマは、常に高い視聴率を稼ぐ。しとやかな表情と、現代的な感覚を兼ね備えた個性が共感を呼び、いま最も魅力ある女優のひとりだ。「おはん」では、激しい気性を持つ意志的な女の内面を、彼女の個性の中にとり込んで演じきる。耽美的なムードの中に、その豊艶な美しさを放射し、毅然とした輝きを観る人の心に刻みつけた。(東京都出身)
優秀賞志穂美悦子(コータローまかりとおる/上海バンスキング/ザ・オーディション)


日本映画初といってもいい、正統派の女性アクションスターとしてデビュー。華麗なアクションで喝采を浴びたが、天性の爽やかな魅力で、演技の幅を大きくひろげている。「上海バンスキング」では、歌い踊り躍動する中に、コミカルさも加えた演技が楽しい。他に「コータローまかりとおる」「ザ・オーディション」でも味を出し、女優として一層飛躍した年となった。( 岡山県出身)
優秀賞夏木マリ(北の螢/里見八犬伝)


映画女優として活躍するだけでなく、いまやミュージカル女優としてもトップスターである。ミュージカル「スイート・チャリティ」等で芸術選奨の新人賞を手にした。「里見八犬伝」では、妖気漂う演技で伝奇的な世界を盛り上げ、「北の螢」では、悲しい運命に生きる女を熱演。女の香気を発散する華やかなムードで、観客を魅了した。(東京都出身)
優秀音楽賞
最優秀賞池辺晋一郎(瀬戸内少年野球団)


名曲「イン・ザ・ムード」をアレンジした主題曲で、終戦直後の雰囲気を甦えらせた「瀬戸内少年野球団」。他にも、「りんごの唄」や「帰り舟」等、当時のヒット曲を要所要所に実に効果的に挿入し、ドラマをいっそう盛り上げた。池辺氏のスコアは、原曲のイメージを大切にしながら映像の中に溶け込ませ、映像芸術としての質の向上に貢献している。(昭和18年 茨城県)
優秀賞宇崎竜童(海燕ジョーの奇跡/晴れ、ときどき殺人)


ヒットメーカーを超えた幅広い才能で、映画音楽も数多く手掛けている。「海燕ジョーの奇跡」では、シャープな映像をピタリととらえたダイナミックなサウンドで、物語のリズム感を盛り上げた。「晴れ、ときどき殺人」では、ミステリアスで、しかもユーモラスなドラマの雰囲気を、軽快なピアノソロが彩っている。一作ごとに、さらに大きく跳躍しようとする人である。(昭和21年 京都府)
優秀賞越部信義(上海バンスキング)


「上海バンスキング」が“オンシアター自由劇場”で産声を上げ、舞台上演された当時からの音楽担当者だった。映画「上海バンスキング」でも、確かな手腕が発揮されている。舞台と同じ、昭和10年代を代表するスタンダードジャズをピックアップし、全編に散りばめた。時に華麗に、特に悲しく、ドラマを彩っている。(昭和 8年 東京都)
優秀賞佐藤勝(北の螢)


優秀音楽賞を6回受賞、うち3回が最優秀音楽賞という、まさに日本映画音楽界になくてはならない、大御所的存在である。「陽暉楼」に引続き五社監督と組んだ「北の螢」では、舞台となった石狩原野の自然そのままに、雄渾な楽想で物語のトーンを包み込んだ。北海道は氏の故郷でもあり、その音楽の原点を感じさせる力強いサウンド宇宙であった。(昭和 3年 北海道)
優秀賞ツトムヤマシタ(空海)


日本よりも海外で活躍しているパーカッショニストであり、シンセサイザー奏者、作曲家、演出家である。映画「空海」の密教世界を、荘厳なメロディと響きの中に表現した。「空海に出逢って、白分の芸術世界が広げられました」と自ら担当を申し出る。8カ月もの間、東寺に籠って作曲した、というエピソードを持つ。(昭和22年 京都府)
優秀撮影賞
最優秀賞宮川一夫(瀬戸内少年野球団)


カメラマン人生60年。日本映画界に燦然たる輝きを放つ、まさに至宝である。「いいダンナさんに恵まれて」と、カメラマンを監督の女房にたとえる。そして「老いらくの恋が篠田さん」と語る。「沈黙」「はなれ瞽女おりん」「悪霊島」そして「瀬戸内少年野球団」と、その情熱は尽きない。瀬戸内の明るい陽光の下、叙情的、かつ奔放なカメラワークの魔術が冴え渡った。(明治41年 京都府)
優秀賞安藤庄平(麻雀放浪記)


「泥の河」で、1982年度の最優秀撮影賞に輝いている。「麻雀放浪記」も「泥の河」と同じ白黒スタンダード。和田誠監督の凝りに凝った演出に、十二分に応える出来栄えの画面づくりをした。その技の冴えは、正統に徹しながらも、随所にさりげなく高度なテクニックを駆使し、陰影に富んだ深みのある映像を創造している。(昭和 8年 東京都)
優秀賞飯村雅彦(天国の駅)


1981年には、「二百三高地」で日本アカデミー賞最優秀撮影賞に輝く。田坂具隆監督の「湖の琴」「五番町夕霧楼」等、代表作も数多い。「天国の駅」では、妖しい吉永の美しさを叙情的な画面に刻み込んだ。また「空海」では、格調高い構図の内に、壮麗な力強さで空海の生涯を追った。静と動、どちらの画面づくりにも、職人芸的な冴えを見せる名手である。(昭和 3年 茨城県)
優秀賞五十畑幸勇(おはん)


新人ながら、市川崑監督の期待に見事に応えた「おはん」。男と女の情念が綾なす絢爛たる妖艶美を、独特の流麗な映像で仕上げた。市川作品には、常に緻密に設計された色彩が生きている。原色を多用した色彩感覚あふれる背景の中で、人物が抜け出るようなカメラワークを駆使。陶酔的な世界を展開している。(昭和16年 東京都)
優秀賞前田米造(お葬式)


「家族ゲーム」や「メインテーマ」を手掛けた名手。計算され尽くした緻密なカメラワークで、室内劇を得意とする。その手腕が、室内シーンの多い「お葬式」においても存分に発揮された。葬式という儀式の中で繰り広げられる人間模様を、丹念に、鮮やかに映し取っている。夏の木立の鮮やかな緑も印象深い。風格ある画面づくりで、伊丹監督を大きくバックアップした。(昭和10年 東京都)
優秀照明賞
最優秀賞佐野武治(瀬戸内少年野球団)


瀬戸内の明るい陽光とは裏腹に、家に帰るとそれぞれに苦悩を抱えていた、「瀬戸内少年野球団」の主人公たち。その明と暗の対比を、見事な技術で浮びあがらせている。しかし、子どもたちを見守る映像には、いつもぬくもりがあり、柔らかな陰影で包み込んでいた。この人の丹念なライティングと、まなざしの優しさの成せる技である。(昭和 5年 京都府)
優秀賞梅谷茂(麻雀放浪記)


混乱した世相を背景に、荒廃した都会の影で男と女が蠢く「麻雀放浪記」。歓楽街に、蛾のようにたむろして生きる勝負師たちの孤独な姿に、白黒ならではの、光と影のコントラストを生かした。時代の雰囲気を的確に伝え、ベテランの腕で、名手安藤庄平カメラマンの画面づくりに応えた。「二百三高地」で、 1981年度の最優秀照明賞受賞。(昭和 7年 東京都)
優秀賞小林芳雄(天国の駅)


「大日本帝国」「海ゆかば」等の大作から、伊藤俊也監督の「犬神の悪霊」等まで、幅広い分野で堅実な仕事振りを示す。「天国の駅」では、とにかく綺麗な絵にすることだけを心掛けたという。薄暗い室内シーンにおける微妙な陰影、露天風呂のセットにおける自然なトーンなど、蓄積された技量の確かさを感じさせる。(昭和 8年 埼玉県)
優秀賞望月英樹(おはん)


「復活の日」「駅」「海峡」と、代表作も数多い。ここ数年の仕事の充実ぶりには、目をみはるものがある。市川監督とは「獄門島」でコンビを組んでいる。「おはん」でも、監督の意図を充分に生かし切り、熟練した緻密なライティング技術で応えた。スクリーンを彩る光と影との微妙な陰影の美しさは、この人の力量に因るところ大である。(昭和12年 東京都)
優秀賞加藤松作(お葬式)


「お葬式」の撮影は、伊丹監督の別荘を使って行なわれた。ややもすると雑になりがちなロケセットの照明だが、1カットごとに実に自然な光を作り出し、映像のリアリティを高めるのに大きく貢献した。映画史上、最も本物らしいと評された奥村公延の「死体」も、効果的な照明なしには、成功を納めなかったに違いない。(昭和12年 神奈川県)
優秀美術賞
最優秀賞西岡善信(北の螢/化粧/瀬戸内少年野球団/旅芝居行進曲)


五社監督の「鬼龍院花子の生涯」と「陽暉楼」によって、1983・1984年と、たて続けに最優秀美術賞を受賞。昨年も「北の螢」「化粧」「瀬戸内少年野球団」「旅芝居行進曲」と、絶好調の仕事ぶりである。時代考証が重要なポイントとなる映画には、美術が果たす役割も大きい。時代劇を多く手掛けた手腕と、定評ある様式美が、作品に厚みある風格を与えている。(大正10年 奈良県)
優秀賞井川徳道(空海/序の舞/修羅の群れ)


昭和30年代からの古いキャリアを持つ。代表作には、「一心太助」「真田風雲録」「日本の首領」「冬の華」等がある。時代劇、任侠映画の美術の第一人者だ。1984年は、「空海」「序の舞」「修羅の群れ」と、趣の異なる3本の映画で、円熟した腕前を見せてくれた。とりわけ、ダイナミックなドラマが展開するシーンのセットの見事さは、特筆に値する。(昭和 4年 京都府)
優秀賞中村州志(天国の駅/麻雀放浪記)


ひなびた露天風呂で、かよとターボが自然に結ばれるシーンが、ひときわ印象深かった「天国の駅」。スタジオとは思えない見事なセットが、劇的シーンを情感豊かに彩っていた。また、終戦直後の東京が舞台となる「麻雀放浪記」では、ディテールにまで細心の注意を払い、当時の町並を忠実に再現した。リアリスティックな映像に果した貢献度は大きい。(昭和 2年 東京都)
優秀賞村木忍(おはん)


「地獄変」「どですかでん」「忍ぶ糸」「悪魔の手毬唄」等、多彩な作品を手掛けてきた、映画美術界の重鎮である。市川監督の前作「細雪」に引き続き「おはん」でも、磨き抜かれた技とセンスを駆使して、妖艶・華麗なドラマが展開する背景を用意した。女性ならではの丹念な心配りで、市川監督の映像魔術が思う存分跳梁するための、舞台を創造したのである。(大正12年 東京都)
優秀賞森田郷平/横山豊(上海バンスキング)


「夜叉ヶ池」で幻想世界を華麗に展開した横山氏と、「砂の器」「事件」等、野村芳太郎監督の作品を数多く手掛けている森田氏。この2人が深作ファミリーに参加して、1930年代の上海を見事に再現した。豪華なナイトクラブ「セントルイス」。そして、市街戦が繰り広げられる上海の街は、4ヶ月、8000万円を費して築かれたオープンセットである。(昭和 5年 神奈川県)(昭和17年 北海道)
優秀録音賞
最優秀賞西崎英雄(伽揶子のために/瀬戸内少年野球団)


「泥の河」に続いて小栗康平監督と組んだ「伽揶子のために」。水道検査員の話を聞いた主人公のふたりが、横たわって道路に耳を当てる場面。また、「瀬戸内少年野球団」の、遠い記憶を呼び戻すような、子どもたちの声。いずれも、音に対する鋭敏な感性のみが可能にする、心の琴線に触れるような繊細な音のとらえ方である。(大正 9年 岡山県)
優秀賞高橋和久/小尾幸魚(上海バンスキング)


1984年の日本映画で、最も“音”にあふれた映画といえば、「上海バンスキング」。音楽、ナイトクラブのざわめき、軍靴の音、そして戦争シーン…。ふたりは、この膨大な音のドラマを、ダイナミックかつ丹念に描き上げた。高橋氏は、「寅さん」シリーズ等を手掛けている。また、「君の名は」から初期の「寅さん」、「家族」「化粧」まで、小尾氏のキャリアは長い。(昭和12年 茨城県)(大正10年 群馬県)
優秀賞信岡実(お葬式/海に降る雪)


「お葬式」では、葬儀というセレモニーに伴う、種々雑多な現実音とセリフとを、見事な間合いで重ね合わせている。映像と音とが溶け合った不思議な味わいで、観客を画面の中に引き込んだ。また、「海に降る雪」の主人公は、テレビ局の効果マン。音のプロの世界を扱いながら、ごく自然な音作りで完成度を高めた。(昭和 9年 神奈川県)
優秀賞林鑛一(天国の駅)


ドキュメンタリータッチや、サスペンスあふれる映画を得意とする。「誘拐報道」や「白蛇抄」で繰り広げてくれたように、念入りでリアリスティックな音づくりには定評がある。「天国の駅」では、座敷での迫力ある殺害シーンの音や、死刑台へ一段一段昇ってゆく音等で、映像に圧倒的な緊迫感を与えている。(昭和10年 東京都)
優秀賞平井清重(北の螢/空海/コータローまかりとおる/修羅の群れ)


任侠ものの張りつめたトーンを、動と静の鮮やかなコントラストの内に表現する時、この人の右にでる者はいない。近年は五社監督と組んだ「鬼龍院花子の生涯」「陽暉楼」で、音の妙技が一段と冴えわたった。昨年も絶好調。「北の螢」「空海」「コータローまかりとおる」「修羅の群れ」と、いずれもダイナミックな音づくりで聴かせてくれた。(昭和16年 滋賀県)
優秀編集賞
優秀賞西東清明


映画作品完成の為に重要な技能である編集の部門に於て、新人監督のよき協力者として「麻雀放浪記」に貢献した功績を高く評価された。昭和35年、19歳で東映東京撮影所の編集に入社以来、この道一筋、数多くの作品を手がけ、現在会社の編集係長でもある。
優秀外国作品賞
最優秀賞ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ


1930年代を軸に、禁酒法時代から現在に至るまでのアメリカの半世紀を捉えた、一大映像モニュメントである。監督は、マカロニ・ウエスタンの巨匠セルジオ・レオーネ。アメリカ社会を陰で動かしてきた男たちの姿を、名優ロバート・デ・ニーロを得て描き切った。構想14年、製作費4000万ドル。レオーネ監督の執念が、史上最大級のスケールの巨編に結実した。(東宝東和)
優秀賞愛と追憶の日々


昨年度の米国アカデミー賞で、作品賞をはじめ5部門を受賞。ラリー・マクマートリーの原作を、ジェームズ・L・ブルックスが脚色、監督した。主役の母娘をシャーリー・マクレーンとデブラ・ウィンガーが熱演。個性派揃いの脇役陣も達者な演技を見せ、落ち着いた演出と相まって、上質のエンターティメントに仕上がった。(CIC)
優秀賞インディジョーンズ 魔宮の伝説


今や世界の映画界を席巻した観のあるふたり、ジョージ・ルーカスとスティーブン・スピルバーグが、「レイダース/失われたアーク」に続いて手を結んだ娯楽巨編。時は1935年、上海からスタートする今回の冒険譚は、スピルバーグによれば「前作以上のジェットコースター感覚」。まさに息もつかせぬアクションシーンの連続は、圧倒的な迫力で観る者に迫る。(CIC)
優秀賞ナチュラル


1980年「ブルベイカー」に主演、「普通の人々」を監督して以来4年間、スクリーンから遠ざかっていたロバート・レッドフォードの新作である。35歳にして初めて球界入りする天才野球プレイヤー、ロイ・ハブスを好演し、スター健在を知らしめた。バーナード・マラマッド原作。新鋭バリー・レビンソン監督が、情感あふれる演出で秀麗な映像美を展開している。(コロムビア)
優秀賞ライトスタッフ


超音速機時代から、マーキュリー計画に至るアメリカの宇宙計画の経緯を、テストパイロットたちの姿を通してビビッドに描いた大作。トム・ウルフのベストセラーを、フィリップ・カウフマンが脚色・監督した。特撮シーンを駆使した空中、宇宙シーンの迫真性は見事である。パイロットひとりひとりの野望や苦悩が丹念に描き込まれた点、並の大作とは一線を画する。(ワーナー)
新人俳優賞
優秀賞吉川晃司(すかんぴんウォーク)


大森一樹監督の「すかんぴんウォーク」の主役として、映画初出演。挿入歌「モニカ」で、歌手としても華々しいデビューを飾った。高校時代は水球の名選手。オリンピック候補選手として将来を嘱望されたが、本人の堅い意志で芸能界入りした。デビュー後も快調にヒットを飛ばし続けており、久々に登場したスケールの大きな新人として人気を集めている。(広島県出身)
優秀賞田中隆三(海に降る雪)


中田新一監督の「海に降る雪」で、テレビ局に勤める効果マンの青年に扮し、同じく新人の和由布子と共演している。青山学院を卒業後、自由劇場に入団。退団後、いくつかのテレビ出演があるが、映画は今回が初めて。姉は女優の田中裕子。「姉は姉、僕は僕です。ともかく食える俳優になりたい」と、目を輝かせて語る。(大阪府出身)
優秀賞野村宏伸(メイン・テーマ)


森田芳光監督の「メインテーマ」でデビュー。2万人を超す応募者の中から選ばれた、ラッキーボーイである。“強さとナイーブさを同時に持ち合わせている ”とは森田監督の弁。ピックアップトラックに乗り、マジック修行の旅をしている青年健を、演技を感じさせない瑞々しい感覚で演じ、注目を浴びた。(東京都出身)
優秀賞和由布子(化粧/海に降る雪)


NHKのエース・ディレクター和田勉に見出され、テレビドラマ「波の塔」で女優としてのスタートを切った。映画初出演は、渡辺淳一原作の「化粧」。豪華女優陣の中にあって、新鮮な演技が光った。また、畑山博原作の「海に降る雪」ではヒロインに抜擢され、痛ましい青春の光と影を見事に演じ切った。(東京都出身)
優秀賞佐倉しおり(瀬戸内少年野球団)


「瀬戸内少年野球団」で、元海軍提督の父と共に島にやってきた美少女、武女を演じている。1150人の応募者の中から抜擢された。その端麗な顔立ちは、毅然とした美しさをたたえ、気品すら感じさせる。ラストシーン、船上で花束を抱え無言で立ちすくむ彼女の瞳は、深い悲しみの内に強い意志を示した。映画のテーマを集約したような、その美しい表情は素晴らしかった。(東京都出身)
優秀賞富田靖子(アイコ16才/ときめき海岸物語)


少女の日常をフレッシュなタッチで描いた、「アイコ十六歳」のアイコ役でデビュー。「ときめき海岸物語」では、幼い恋心を燃やすヒロインを演じ、成長ぶりを印象づけた。天性の“カン”の良さと、可憐なマスク、そしてその時々でデリケートに変化する表情の妙は、将来女優として大きく花開く可能性を感じさせる。(福岡県出身)
特別賞企画賞
優秀賞角川春樹


映画製作に乗り出して以来、優秀な企画力と卓抜した宣伝力との上に立って業界に新風を吹き込み、若年層を中心とする新たな観客を動員しつづけている功績は、既に万人の認めるところ。今年度も「里見八犬伝」「麻雀放浪記」 をはじめ7作品を製作。特にこの2作は企画のユニークさに於て刮目に価する。
話題賞

作品部門:「Wの悲劇」


俳優部門:薬師丸ひろ子(「Wの悲劇」)