誰もが笑い、涙をながした!
映画で東日本大震災の被災者、被災地を応援した7年
8年前、2011年3月11日に発生した東日本大震災は、世界中の人々を戦慄させました。と同時に、人々は改めて絆に気づき、被災者や被災地のために何かできないかと考えはじめたのです。それは映画界にあっても同じこと。日本アカデミー賞協会も「何かできることがあるのではないか」と模索し始めました。
そんなときに出合ったのが『シネマエール東北 東北に映画を届けよう!プロジェクト』でした。『シネマエール東北』は「映画を届けることで被災地の人たちにエールを送りたい」「映画を愛する世界中の人々が被災地を見守っていると被災者に伝えていきたい」、その思いで上映活動を始めたプロジェクトです。
東北各地の映画館、映画関係団体もこれに賛同し、プロジェクトのスタッフとして東北各地で上映会を始めました。上映場所は被災から逃れた映画館や市民ホール、そして仮設住宅の集会所や児童館、体育館など……。ときには屋外で、建物の壁を銀幕代わりにして上映したことも。被災者にとってはそれが逆に楽しいイベントとなったようで、ワクワクとした様子で会場に集まってきました。
大いに笑い、大いに泣いた被災者たち
このプロジェクトでの日本アカデミー賞協会の主だった役割は、東北各地でその年の日本アカデミー賞受賞作品を無償で上映するため、各配給会社、製作委員会、製作会社、版権元にその許諾を取ること。その結果、毎年最優秀作品賞、アニメーション作品賞、外国映画作品賞を受賞した、正にそのとき話題を集めていた3本を提供することができました。
ご存じのように海外の国々は著作権管理が非常に厳しく、通常、外国作品の無償上映はほぼ不可能です。しかし、被災者と被災地を応援するという趣旨に理解を示し、各配給会社からの無償提供が実現しました。さらに、第37回最優秀外国作品賞受賞作品「レ・ミゼラブル」を上映する際には、主演のヒュー・ジャックマンの励ましのメッセージまで寄せられ、被災者の心を震わせました。
プロジェクトに参加して私たちが心から嬉しかったのは、厳しい環境の中でゆく先に不安を抱えながら生活している被災者が、映画を見ているときだけは笑いや楽しさを取り戻すことができたことです。「映画を見て、再び笑い始めるきっかけを作ることができました」、「震災前、ときどき夫と映画館に行っていたことを思い出した。早く復興し、また見にいけるよう願っています」、「仮設住宅ではおとなしい孫が、アニメ映画を見ながらお友だちとはしゃぐ姿を見て、私もうれしくて」そんなふうに、笑顔で語る人たちが大勢いました。
一方で、ずっと泣くことをこらえていた人が、暗闇の中で密かに涙を流すことができたという話も聞きます。泣くことで一時でもストレスから解放されたら、それもまたプロジェクトのひとつの成功といえるのではないでしょうか。
ともに映画で活動できたプロジェクトに感謝
また、当協会の参加は、プロジェクトの地元スタッフへの一助にもなったという評価をいただきました。
2011~17年、岩手県宮古市で開催された市民ぐるみの映画祭「みやこほっこり映画祭」の中心的存在で、『みやこシネマリーン』の支配人だった櫛桁一則さんはこうおっしゃいました。「受賞作品の提供はもちろん、受賞者のサイン入りポスターを提供してくださったり、協会事務局長が来訪して観客と談話してくださったりして映画祭を盛り上げてくださいました。日本アカデミー賞協会の協力なければ、みやこほっこり映画祭は1、2年で尻つぼみに終えてしまっていたでしょう」『シネマエール東北』を立ち上げたコミュニティシネマセンターの岩崎ゆう子さんも、「日本アカデミー賞協会が参加してくださったことで、私たちの予想よりも大きな活動ができました。プロジェクトがここまで続き、被災者に元気を与えることができたのも、協会の協力があったからです」と真摯に言ってくださいました。
2018年、『シネマエール東北 東北に映画を届けよう!プロジェクト』はその活動を終えました。
上映回数 722回
総観客数 38,866人
上映本数 のべ205作品
この実績は実にすばらしいものです。
映画祭を開催したり、巡回して上映会をしたりした『みやこシネマリーン』の櫛桁さん、20世紀アーカイブ仙台の坂本英紀さんはもちろん、山形県映画センターの故・宮沢啓さんも小学校や仮設住宅を訪れて上映会を行った方々。宮城県仙台市にはおよそ150回の上映を行った企業も。
日本アカデミー賞協会がこのプロジェクトに参加することができたのは、『シネマエール東北』スタッフのそんなひたむきな地元貢献があったからです。
このプロジェクトの活動をきっかけに、地元でイベントを立ち上げる人材や、震災前より映画を観る環境が育ち、映画がより身近な娯楽として新しい一歩を踏み出しています。
映画で被災地を活気づけようと立ち上がった人々と『シネマエール東北』の地道な努力と継続に、同じ映画人として尊敬の念を抱かずにはおれません。
東北大震災後、残念なことに日本国内では何度か大きな災害が起きています。東北への復興協力は一旦小休止しますが、これからも映画で人々の不安を軽減し、笑顔になれる瞬間を与えられるよう社会への協力を行っていきたいと思っています。
最後に、当協会と『シネマエール東北 東北に映画を届けよう!プロジェクト』に惜しみない協力をくださった各配給会社、製作委員会、製作会社のみなさんに、厚くお礼を申し上げます。
<日本アカデミー賞最優秀賞 上映作品>
■2013年 第36回最優秀作品賞受賞作品
「桐島、部活やめるってよ」「おおかみこどもの雨と雪」「最強のふたり」
■2014年 第37回最優秀作品賞受賞作品
「舟を編む」「風立ちぬ」「レ・ミゼラブル」
■2015年 第38回最優秀作品賞受賞作品
「永遠の0」「STAND BY ME ドラえもん」「アナと雪の女王」
■2016年 第39回最優秀作品賞受賞作品
「海街diary」「バケモノの子」「アメリカン・スナイパー」
■2017年 第40回最優秀作品賞受賞作品
「シン・ゴジラ」「この世界の片隅に」「ハドソン川の奇跡」