第1回日本アカデミー賞作品一覧に戻る
日時: 1978(昭和53)年4月6日(木)
場所: 帝国劇場 帝国ホテル
司会: 岡田真澄/土居まさる
※第1回〜第3回はノミネート方式で実施

優秀作品賞
最優秀賞/優秀賞
(C)松竹(株)

最優秀作品賞 「幸福の黄色いハンカチ」


北海道は、若者たちの郷愁を誘う“希望郷”。この土地を背景に、行きずりの若いカップル(武田・桃井)と網走刑務所を出たばかりの中年男(高倉)が、夕 張の妻(倍賞)の元へ行きつくまでの、心温まる人間の愛のドラマである。ラストシーンを飾る満艦飾の黄色いハンカチの壮観さは、この作品のテーマの凝縮さ れた映像として、見ごたえがある。監督は、日本映画の良心派と言われる山田洋次監督。映画ファンにとっては、この山田監督と“日本の男”を代表する高倉健 との初顔合わせは、永年待ち望んでいたものだろう。両氏は、昭和6年生れの同期のためか、お互いに気が合い、大のコーヒー好き(酒はやらない)という点で も一致している。その他に、倍賞千恵子、桃井かおり、映画初出演の武田鉄矢が、新鮮な演技陣として競演。さらに渥美清、太宰久雄の出演も大きな話題となっ た。また雪と枯れ野と緑の美しい北海道でのオールロケの撮影も、見どころの一つとなっている。(松竹)

優秀作品賞 「青春の門・自立篇」


「青春の門」“筑豊篇”に続く“自立篇”。筑豊を捨て新しい世界に自由を求めて上京した信介(田中健)の魂の昂揚と孤独を、貧しい学生生活の中で人間の ふれあいを通してみずみずしく描いている。時は、昭和29年、第五福竜丸事件、造船疑獄、朝鮮戦争の終結、不景気、失業者、就職難という迷いと停滞の年で あった。浦山桐郎監督は「この年は私にとっても思い出深い年であったが、主観的な心情に甘えることなく、私が見たり聞いたりして来た戦後民衆の記録という 意味あいをこめて製作した。それは大衆のひとりとして生れ育って来た私の義務である」と語る。当時そのままに再現されたセットの新宿二丁目に話題騒然。そ の様子を一目見ようと、来訪者が後をたたなかった。“筑豊篇”以来成長の目覚しい田中健、泥くさく清純な雰囲気をかもしだす恋人織江役の大竹しのぶ、倦怠 的なムードで絶妙の演技のいしだあゆみなどが好演している。(東宝映画)

優秀作品賞 「竹山ひとり旅」


貧しい津軽の百姓の子として生れた定蔵(林隆三)は三才の頃、ハシカをこじらせて半失明。母は生きていくための手段として、三味線を買い与える。隣村のボサマ戸田重太郎(観世栄夫)の弟子になり、三味線と唄を修業する。そして17才で独立、放浪の生活が始まる―― ひと筋の棹に、新たな音の響きを探り続ける津軽三味線の名人高橋竹山、自らを放浪芸人と名乗るその青春時代を描いた「竹山ひとり旅」。この竹山の放浪の半生を追って、スタッフは雨や風や雪の青森県下一帯をしつようにロケーション。2年ごしの撮影でスタッフは前人未踏の地までわけ入り、下北半島の地理には権威になったほど。東北の自然美をすぐれた映像構成で描く黒田清巳、新しい実験をこころみる音楽担当の林光らも意欲的。三味線に初挑戦の林隆三をはじめ、乙羽信子、佐藤慶、倍賞美津子ら100人に及ぶ多彩な顔ぶれのキャストが新藤兼人監督のもと、竹山をかこむその群像を見事に演じている。(近代映画協会=ジャンジャン)

優秀作品賞 「八甲田山」


明治35年1月、日本陸軍は、日露戦争を前に、極寒地訓練のために、神田大尉(北大路欣也)率いる青森第5連隊と徳島大尉(高倉健)率いる弘前第31連隊は、壮大な雪の八甲田山に挑む。激烈な大自然を前にしての極限に立たされた人間のドラマである。人間は自然の中に組み込まれた小さな“何か”にすぎない。日本の自然は人間に関わりなく四季をつくりその中で人間は愛し、めぐり逢い、戦うものであると、この作品は主張している。主演俳優からエキストラまで死力を尽しての演技。その中でも高倉健は、丸2年間他の仕事を一切断わってこの作品に賭け、八甲田の雪との闘いの中で生れた演技は、演技の域を越えた名演といわせた。雪の冷たさ、吹雪の厳しさなど、八甲田の圧倒的な大自然を感じさせる木村大作の映像の素晴しさ、5年の年月をかけた森谷監督の情熱見事な橋本忍の脚本をはじめ、スタッフ全員の気迫がスクリーンの隅々まで感じられる力作である。(橋本プロ=東宝映画=シナノ企画)

優秀作品賞 「はなれ瞽女おりん」


この作品は、三味線を弾き、瞽女唄を歌いながら、門付けをして歩く盲目の女旅芸人“瞽女”の物語である。6歳で瞽女屋敷の弟子となり21歳ではなれ瞽女となったおりん(岩下志麻)。初めてつかんだ一人の男(原田芳雄)との愛は、つかのまの夢と消えた。四季折々に変化する日本の美しい自然の中に溶け込んで生きる漂白の女を、そして失われた日本への切々たる哀感とともに日本人と日本人の原風景を、篠田監督は情感をこめて描く。大正時代の風景や街並み、家屋などを求めて、3年がかりでロケ地を探し、3万キロの撮影をしたという。二度と撮ることは出来ないであろう日本の亡びゆく風景、郷土芸能を収めた作品としての価値も高い。なお、岩下志麻の演技と宮川一夫の映像も公開時に大きな話題となった。岩下志麻、原田芳雄のユニークなコンビに、奈良岡朋子、樹木希林、西田敏行、山谷初男などの多彩な演技陣が脇を固めている。(表現社)
優秀監督賞
最優秀賞山田洋次「幸福の黄色いハンカチ」「男はつらいよシリーズ」


“慎ましやかな愛を語らせたら右に出る者はいない”と、言われる山田洋次監督。「幸福の黄色いハンカチ」のテーマについて、「青年が、このシラケの時という中で、無意味に、無感動に生きていくことは、不幸なことである。そんな若者達にとって、この作品が、愛する意味や、人生の価値を考える契機となればよいと願っている」と語る。「男はつらいよ」シリーズは、数えて20本目を迎えたが、氏は、絶えず最新作を撮る時は、第1作目を撮るような新鮮な気持ちで取り組んでいるという。“1度しかない人生を大切にし、長い年月をかけて築きあげてきた人類社会を少しでもよくして、次の世代に伝えることは、人間の使命である”氏のこの精神は、映画を製作する上での基軸となっているといえる。今回の作品にも、この精神がうかがわれる。監督をとりまくスタッフのチームワークのよさが、作品に投影されているのは見逃せない。(昭和 6年)
優秀賞市川崑「悪魔の手毬唄」「獄門島」


30年のキャリアを持つベテラン映画監督。「こころ」「ビルマの竪琴」で日本を代表する映画作家の一人となる。「炎上」「野火」「破戒」などシリアスなドラマの分野で、優れた業績を残した。「犬神家の一族」「悪魔の手毬唄」「獄門島」と、続けて横溝正史の作品を映画化。今回は「悪魔の手毬唄」「獄門島」で優秀賞受賞。同シリーズでモジャモジャ頭の名探偵金田一耕助はすっかり人気者となった。1作目の「犬神家の一族」がヒット映画だけに次に続く作品は苦心したとのこと。派手さがない「悪魔の手毬唄」では演出にパンチをきかせラブロマンスの部分も強調。「獄門島」では原作と違う犯人を設定し“映画では誰が犯人か”と話題をふりまいた。氏自身はこの2作について「観客をどうやってフィクションの世界に引き込むか、怖さと現代性のバランスの配分をどうするかということに一番気を使った」と語る。自ら脚本名には“久里子亭”(クリスティ)と名のる程の推理小説のファンでもある。(大正 4年)
優秀賞篠田正浩「はなれ瞽女おりん」


日本ヌーヴェルヴァーグの旗手の一人として、独立プロ「表現社」を作ってもう10年が経っている。独立後第1回の作品「あかね雲」の原作者が水上勉氏。 10年を経て、再び水上氏の作品「はなれ瞽女おりん」の映画化が奇妙な因縁を感じさせる。大正時代の風景を探すのに、全国一都九県、80数ヵ所をまわり、 3万キロにおよぶ撮影。「ロケハンに2年、脚本に1年、製作に1年を費やしたため、日本の風景が日々にその姿をかえていくことに、恐ろしさを感じた」という。今にも滅びてしまいそうな瞽女さんの世界を借りて、やがて消えてゆくひとつの日本の伝統文化を追い続ける。破壊されてゆく日本の風景とともに、滅亡にむけて歩みを続ける文化への危惧感が、この作品の奥に秘められている。独立プロで映画を製作することの困難な現状の中、「心中天網島」「沈黙」等の映画史に残る名作を生みだした監督の執念のようなものが、この作品のすみずみにまで染みついている。(昭和 6年)
優秀賞新藤兼人「竹山ひとり旅」


シナリオライターとして所属していた松竹大船撮影所を退社。近代映画協会を創立し「愛妻物語」で監督となる。以後、社会的リアリズムで人間像を描くことに特長がある。“ドラマというのは人間のドキュメンタリーであり、ドキュメンタリーは生きもののドラマであるような気がする、映像ではこのふたつは同じもの”…… と独自の視点をもつ氏は、「竹山ひとり旅」について、「今回はドキュメンタリーとドラマを融合させるという点に力をいれた。つまり、ドラマとドキュメンタリーという、次元の異なったものを同居させる可能性を映像で具体的に表現しようと実験してみた」と語る。つぎつぎと画面に展開される、絵のようにとらえた東北の自然美。津軽という素材を単なるバックグラウンドではなく、竹山という人間と切りはなせない風土として見たその主張が、ドラマチックな構成の中でドキュメンタリーとしての見どころをも作り上げている。(明治45年)
優秀賞森谷司郎「八甲田山」


昭和40年「ゼロファイター大空戦」でデビュー。その後、若者の自意識を濃厚ににじませた、単なる風俗映画の域にとどまらない青春映画で鮮やかな演出技術をみせる。今回の「八甲田山」は、「日本沈没」以来の沈黙を破っての登場。この作品は、八甲田山に挑戦した青森第5連隊と弘前第31連隊を中心に、人間と人間との愛……生れてから死ぬまでの旅の中で人と人とのふれあい、めぐり逢いの運命を描く。氏はこの映画で「人間の大きな魂の遍歴の号泣、その強さを悲しさにまで迫りたい」と語る。撮影中、吹雪の量が少ないため、零下10度の寒風の中で4時間も待ったというエピソードからも、この作品に賭ける気迫がうかがわれる。吹雪、凍死、遭難、死の彷徨というイメージの作品に、大きな救いとして女優陣を効果的に使っているところも見逃せない。繊細さとダイナミックな面と両方兼ねそなえた「八甲田山」は、氏の才能が余すところなく発揮された映画であるといる。(昭和 6年)
優秀脚本賞
最優秀賞山田洋次/朝間義隆「男はつらいよシリーズ」「幸福の黄色いハンカチ」


監督、助監督という間柄から始まった山田・朝間両氏。共同脚本は「男はつらいよ・奮闘篇」以来、十数本にのぼる。人物設定、登場する人物の生活感をポイントとした脚本が光る。今回受賞された「幸福の黄色いハンカチ」では、“起承転結”をはっきりさせ、笑いの中にジーンと胸をしめつけるような感動をテーマに。また「男はつらいよ」シリーズでは基本的なパターンを崩さずに、絶えず新鮮な感覚で取り組むように心がけているという。(昭和 6年)(昭和15年)
優秀賞新藤兼人「竹山ひとり旅」


吉村公三郎、木下惠介監督らの脚本を担当したが、昭和25年松竹退社。以後、監督として活躍中。実在の人物、高橋竹山の人間を描く「竹山ひとり旅」での脚本で優秀賞受賞。「とくにドキュメンタリー風のドラマをねらった。その中に、竹山の人間描写をみっちり描こうと苦心した」と語る。10時間にもわたるインタビューを監督自身が試み、自ら“放浪芸人”と名乗る「若き日の竹山」さらに「人間・竹山」をスクリーンの中で見事に甦らせた。(明治45年)
優秀賞高田宏治「西陣心中」「日本の首領 野望篇」「やくざ戦争 日本の首領」「北陸代理戦争」


昭和38年「柳生武芸帳」が、デビュー作となる。当時は、時代劇を数多く執筆。その後、任侠映画の台頭とともに、男の情念、執念を追及し、男性アクションプラスロマンの作風を樹立。「西陣心中」では、滅びの美しさを、「日本の首領」「北陸代理戦争」では、男の世界だけがもつ、野望、信念、情感を、表現できたと自負していると語る。得意な分野は時代劇。近年時代劇復興のきざし、待ちに待った時、到来と、時代劇にかける意欲をみせる。(昭和 9年)
優秀賞橋本忍「八甲田山」「八つ墓村」


日本映画の黎明期から戦前にまで活躍した巨匠伊丹万作について映画脚本を学ぶ。シナリオライターになってから多くの実績をおさめ、黒澤監督とのコンビによる「羅生門」「生きる」「七人の侍」など広く国内外に注目を浴びた。その後も東宝のみならず、各社の大作のシナリオを担当、また昭和49年には橋本プロダクションを設立。この年「砂の器」、さらに昭和52年には「八甲田山」で脚本家としてのみならず製作者としての才能も発揮し、脚光を浴びた。(大正 7年)
優秀賞長谷部慶次/篠田正浩「はなれ瞽女おりん」


篠田監督は同作品で監督賞と共に、脚本賞でも優秀賞受賞。同監督と共同執筆した長谷部氏は、「神々の深き欲望」「忍ぶ川」等名作を手がけてきたベテラン・ライターである。“長谷部氏との作業は1年に及び、その間の氏の創作態度に圧倒され続けた”と篠田氏をして言わしめた。愛する男と別れ、憲兵隊から釈放されたおりんが、故郷に舞い戻り野垂れ死にしてゆく箇所は、この作品で重要な意味を持つシーンであり、原作にはない創作部分である。(大正 3年)(昭和 6年)
優秀主演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞高倉健「幸福の黄色いハンカチ」「八甲田山」


初めてと言える他社出演の本格作品「八甲田山」「幸福の黄色いハンカチ」に連続登板。弘前歩兵第31連隊徳島大尉、軍人らしい威厳を失わない硬骨漢が、案内人の女性にふと垣間見せた心優しさ。無骨な性格のために殺人まで犯した坑夫島勇作、彼が網走刑務所出所後にたどる、愛する妻への感動溢れる軌跡。いずれも満天下をうならせた名演だった。今年で45歳を迎えるが、なお渋味と存在感を増しつつある現役俳優の雄。
優秀賞渥美清「男はつらいよ 寅次郎頑張れ」「男はつらいよ 寅次郎と殿様」「八つ墓村」


渥美清の寅さんか、寅さんの渥美清か、今や「男はつらいよ」シリーズで、国民的存在にまでなった。ロケに出ればたちまちできる見物人の人垣に、スタッフは毎回うれしい悲鳴をあげている。昨年も、嵐寛寿郎の殿様との名コンビが話題を呼んだ「寅次郎と殿様」、シリーズ20作目として記念すべき作品になった「寅次郎頑張れ」の円熟した演技で優秀賞受賞。「八つ墓村」で見せた軽妙な麦わら帽子の金田一耕助役も、評価の対象となった。
優秀賞北大路欣也「アラスカ物語」「八甲田山」


「天は我々を見放した!」―― 去年の流行語にまでなった名ゼリフ、「八甲田山」の神田大尉役、更に、単身異国へ乗りこみ、日本男児の意気を広く示した「アラスカ物語」の安田恭輔役、この2作での熱演が多くの観客を魅了した。大スター市川右太衛門を実父にもつ二世俳優としてのデビューだが世に言う親の七光りなど微塵も感じさせない。精悍なマスクと鍛え抜かれた肉体がかもし出す迫力ある演技は、壮大な男のドラマには欠かせない。
優秀賞郷ひろみ「おとうと」「突然 嵐のように」


人気歌手の片手間仕事―― のそしりをはね返し、映画界に新風をそそいだ名作「さらば夏の光よ」、この初出演作で郷ひろみの俳優としての評価は定まったようだ。以後、才人山根成之監督とのコンビ作が、連続して発表され続けている。先輩川口浩に負けじと奮闘した、再映画化の「おとうと」、“万歳!万歳!”と去り行く恋人に叫び、屈折した祝福を与えるシーンが心にしみた「突然、嵐のように」の演技が対象となった。
優秀賞林隆三「竹山ひとり旅」


数多いテレビドラマ出演。舞台出演などでおなじみの顔。単なるモデル映画という領域をこえ、青春映画までに作品を高めた、竹山の青春時代定蔵を快演しての受賞である。「放浪の生活とは、音楽でたとえるならば、アドリブです。三味線とは異質であるが、私もピアノを少し弾きますので、音楽的共通点が役づくりの上で大変ヒントになった」という彼。今回は、パワーのある演技力で定蔵役を見事にこなしている。
優秀主演女優賞
最優秀賞岩下志麻「はなれ瞽女おりん」


「はなれ瞽女おりん」の主役演技で優秀賞受賞。夫君篠田正浩監督の絶妙の演出を得て、瞽女おりんが徹底的に落ちていく姿を、その姿が逆にかもし出す陽気さを熱演し、計算されつくした盲目の演技とともに深い感動を与えた。瞽女なまりは独特で、しゃべり方がゆっくりなので苦労したと語る一方、不思議なもので、目をつぶると自然にゆっくりしゃべれるようになるというあたり、さすが大女優。“役者は目で演技する”という定説を破る。
優秀賞秋吉久美子「姿三四郎」「八甲田山」「突然 嵐のように」


「姿三四郎」の宿敵、村井半助の娘乙美役、「突然、嵐のように」のヒロイン、看護婦からやがてはホステスへと落ちていく薄幸の女小林由紀役、「八甲田山」の弘前連隊案内人滝口さわ役、それぞれの演技を認められての優秀賞受賞となった。いずれも、肩をいからせない自然な芝居が、見る人の心をうったものだ。昭和49年、芸能界入り、以後数多くの映画に出演し、独特な演技で若者の間に熱狂をまき起こした。文才、歌唱力にも定評がある。
優秀賞岸惠子「悪魔の手毬唄」


古い因習と、二大勢力仁礼家と由良家の対立する鬼首村に突発する連続殺人事件「悪魔の手毬唄」の青池リカ役で優秀賞受賞。事件の陰に潜んだ密やかな女の愛の呻き。一人の女が耐え忍んできた苦闘を、涙を流して熱演し、美しくも悲しい女の業を見事に出した。老婆と中年の女と二役を演じ分け、その卓越した演技とメイクは絶賛された。「君の名は」の大スターの座から意欲的に幅広い女優活動を続け、今や日本を代表する大女優の一人。
優秀賞倍賞千恵子「男はつらいよシリーズ」「幸福の黄色いハンカチ」


今や、ヤクザな兄寅次郎を完全に圧倒して、堂々たる日本の女になったさくら役、健さんとの共演という、異色の組み合わせの中で、六年間ひたすら夫の帰りを待つ良妻光枝を手堅く演じた演技力。「男はつらいよ」シリーズ、「幸福の黄色いハンカチ」の作品に対して優秀賞受賞。いずれも、健気さ、控えめさの中に、激しい女性像を秘めた庶民を演じて評判になった。山田洋次作品とは切っても切れない存在になっている。
優秀賞山口百恵「霧の旗」「春琴抄」「泥だらけの純情」


「霧の旗」、「春琴抄」、「泥だらけの純情」、いずれも再映画化。だが、これらの映画の中での彼女、どれも元祖のイメージを吹き飛ばすような力演だった。殺人犯の汚名を着たまま獄死した兄の復讐を果たす柳田桐子、盲目の世界で琴と下男佐助への愛を貫き通すお琴、外交官令嬢という身分ながらヤクザを愛し抜く樺島真美。可愛い子ちゃん歌手のイメージを嘲笑うかのように演じきり、一途に突き進む強烈な自画像が感動を呼んだ。
優秀助演男優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞武田鉄矢「幸福の黄色いハンカチ」


♪コラッ鉄矢、何ばしよっとか!大ヒット曲「母に捧げるバラード」を生んだグループ“海援隊”のリーダーとして知られる。その特異なキャラクターを認められて、「幸福の黄色いハンカチ」に準主役で出演。彼が扮する軽薄な青年、ふとめぐり逢った女の子、そして謎を秘めた中年男が織りなす涙あふれるドラマの中で、彼の演技が、一服の清涼剤のようにさわやかな笑いを誘発していたことは、記憶に新しい。
優秀賞加藤武「悪魔の手毬唄」「獄門島」


早稲田大学卒業後、一年間程中学の教師をしていたが、大学時代から情熱を燃やしていた芝居への未練断ちがたく、演劇界へ飛び込んだという異色経歴の持ち主。横溝正史シリーズ「悪魔の手毬唄」「獄門島」での二つの演技で優秀賞受賞。それぞれ立花捜査主任、等々力警部と役名こそ変わっているが、いずれも「よし、わかった!」なる名セリフを連発、テレビCMにまで使われたキャラクターは、大いに劇場を沸かせている。
優秀賞川谷拓三「河内のオッサンの唄 よう来たのワレ」「ドカベン」「日本の仁義」「ピラニア軍団 ダボシャツの天」


「河内のオッサンの唄」「ドカベン」「ピラニア軍団」「日本の仁義」の出演で、幅広い活躍が評価されての優秀賞受賞となった。十数年にわたる大部屋生活、大スター鶴田浩二の付き人をつとめながら、仁侠映画の群小斬られ役を演じ続け、東映の実録路線転換後、にわかに頭角をあらわした。多くの作品に出演しているが、一作一作が私にとって真剣勝負。演技にあとはありませんと語る。テレビドラマ、CM出演と活躍。ピラニア軍団のリーダー格。
優秀賞三國連太郎「霧の旗」「八甲田山」


「霧の旗」では、ヒロインの凄まじい復讐の犠牲となるやり手弁護士大塚欽三役、「八甲田山」では、青森第5連隊を破滅に導く、場当たり的指揮の軍人山田少佐を演じ、旧軍隊の内部を見事に暴き出した。いずれも性格俳優の第一人者の名に恥じぬ熱演。今回の優秀賞受賞では乙羽信子と共に最年長組に入り、キャリアも既に27年という堂々たるもの。クセのある脇役演技は、彼をおいて他になしとの評価が高い俳優である。
優秀賞若山富三郎「悪魔の手毬唄」「陰獣」「姿三四郎」


「悪魔の手毬唄」では、金田一探偵に捜査を依頼する磯川警部役を演じ、犯人岸惠子にほのかな想いをよせる無言の芝居が光っていた。「陰獣」では、推理小説雑誌の編集者本田達雄を演じ、事件の解決に一役かった。「姿三四郎」では、三四郎の宿敵村井半助を演じ、打撲で他界する前にヒーローとしんみり語り合うシーンで観客をホロリとさせた。以上三作の好演で優秀賞受賞。殺陣をやらせると日本一の評価が高く、若山企画の主宰者でもある。
優秀助演女優賞
(C)日本アカデミー賞協会
最優秀賞桃井かおり「幸福の黄色いハンカチ」


山田洋次監督との意表をついたコンビで「幸福の黄色いハンカチ」に出演。列車食堂の売り子で、同僚の中傷を受けて傷心の旅に出た女の子という役どころを好演しての優秀賞受賞である。特にラストで、はためく黄色いハンカチを発見した喜びの表情と、いつしか青年武田鉄矢と深い口づけを交わすシーンの演技が、演出の妙とともに大きな感動を呼び起こした。テレビでは倉本聡脚本「前略おふくろ様」の海ちゃん役が印象深い。
優秀賞いしだあゆみ「青春の門 自立篇」


五木寛之原作「青春の門」第2作目「自立篇」、1作目に続く浦山桐郎監督のメガホンの元、二丁目ローザと呼ばれるインテリ娼婦カオルを演じる。主演の田中健、大学講師役高橋悦史、二人との強烈なセックスシーンの中に、戦後の女が生きた哀愁を色濃くにじませて、圧倒的好評を得た。本職の歌手業に専念するかたわら、昭和48年には「日本沈没」にヒロイン役で出演、大胆な演技でスクリーン俳優としての地位を確立した。
優秀賞大竹しのぶ「男はつらいよ 寅次郎頑張れ」「季節風」「青春の門 自立篇」


「男はつらいよ・寅次郎頑張れ」では、簡易食堂で働くかわいい少女を、「季節風」では、昼間は勤め、夜は小料理屋でアルバイトという、けなげに生きる少女を、そして「青春の門・自立篇」では、主人公の子供を流産し、池袋の青線に身を落とした末に、すべてを捨てて北海道へ旅立つ不幸な女を見事に演じ分けた。これほど笑顔と涙の似合う女優はいないといわれるように、自然な表情の中に女の喜怒哀楽を表現してみせる演技派女優。
優秀賞乙羽信子「竹山ひとり旅」


「竹山ひとり旅」での、主人公の母親役の演技で優秀賞を受賞。漂泊の旅を続ける息子の軌跡を辿り、その危機には必ず現れて救いの手をさしのべる大いなる母親像が印象的。言葉や動作を超えた、たとえば定蔵と座っているだけで本当の親子だと感じられるような、母親の愛情・暖かさを体で表現できる母親役を演じられたらと思い努力した、との言葉からも熱演ぶりがうかがえる。新藤兼人監督とめでたくゴールインはご承知の通り。
優秀賞奈良岡朋子「はなれ瞽女おりん」


「はなれ瞽女おりん」での、瞽女宿の女主人の演技で優秀賞受賞。主人公のおりんに母と慕われながらも、その不義の故に彼女を破門せざるをえなかった女の苦悶を手堅く好演、安定した演技力でよく篠田監督の期待に応えた。女子美術大学在学中から民衆芸術劇場研究生のホープとしてならし、卒業後すぐ正式に民芸へ入団。数多くの舞台を踏み、その名演はつとに知られるところ。映画では、渋く光る脇役を多く演じてきた。
優秀音楽賞
最優秀賞芥川也寸志「八甲田山」「八つ墓村」


NHK「えり子とともに」で輝かしい第一歩を踏み出し、今や映画音楽の大御所的存在。映画音楽の世界に“芥川節”――美しく抒情的なメロディであり、モダンなセンスの楽器法――という言葉をも生んだ。「八甲田山」では自然と人間をテーマに雄大な曲づくりに取り組み、「八つ墓村」では氏自身、私の映画音楽の集大成であると語る。常に、映画の伴奏ではなく、映像と共に主題を共有する存在としての映画音楽を目指している。(大正14年)
優秀賞大野雄二「人間の証明」


映画音楽を手がけて3作目。もともとはジャズピアニストととしてスタート。昭和42年から4年間、白木秀雄クインテッドで活躍。その後テレビCM、テレビドラマなど、幅広い音楽を手がけている。戦争の落とし子ともいえる「混血」問題を抱えた優秀賞対象作品「人間の証明」では、日本人の持つウェットな部分、黒人の持つブルースのフィーリングを音楽で表現。どうしようもできない母と子の「愛情と悲しみ」が音楽を通して伝わってくる。(昭和16年)
優秀賞佐藤勝「アラスカ物語」「幸福の黄色いハンカチ」


昭和27年、24歳の時から映画音楽を手がけ、「幸福の黄色いハンカチ」で254作目というキャリアを持つベテラン作曲家。代表作は…と尋ねられることが嫌いで、いつも次回の作品ですと答える。受賞作品「アラスカ物語」「幸福の黄色いハンカチ」の製作には1年も前から監督とともに企画を練った。この映画を衣服でたとえるなら、スーツでなく、手ざわりのいい肌着だと語る。演出意図「さりげなく・やさしく愛する」をテーマに、音楽も堅苦しくない「最高の肌着」に徹している。(昭和 3年)
優秀賞武満徹「はなれ瞽女おりん」


1950年「2つのレント」を発表して以来、現代音楽の作曲家として世界的に活躍、多数の映画音楽も担当している。琵琶に新しい命を与えた「砂の女」の音楽のほか、俊英な監督たちの作品には欠かせない存在である。「はなれ瞽女おりん」では、日本の自然の音を基調にして、瞽女唄の持味をこわさないように、浮き出たせるような音の入れかたに苦心したという。日本の自然を美しくとらえた映像、風土と生活に密着した音楽が見事に調和している。(昭和 5年)
優秀賞林光「竹山ひとり旅」


今まで107本の映画音楽を手がけてきた氏は、三味線とともにストーリーが展開する「竹山ひとり旅」の作曲にあたって「竹山の、厳しいが暖かい生きかたに音楽を通してどう寄りそうかに努力した。また、私の音楽と三味線・尺八等のひびきとをいかに“共存”させてゆくかが最も苦心したところ」と語る。でしゃばり過ぎた音楽は映画そのものをウソにしてしまうという氏の音楽づくりが今回も功を奏している。(昭和 6年)
優秀技術賞
最優秀賞宮川一夫(撮影) 「はなれ瞽女おりん」


「無法松の一生」「羅生門」「用心棒」など数多くの名作を手がけてきた大ベテランのカメラマン。「はなれ瞽女おりん」の撮影中、ファインダーを覗いては涙を流し、“これは私の遺言状だ”とスタッフに洩らしたとか。失われつつある日本の原風景を今撮らなければという使命感が、観る者を恍惚の境にまでひき入れそうな美しい画面に投影されている。独立プロ製作ならではのチームワークの良さに助けられて、きめ細かな撮影がすばらしい。(明治41年)
優秀賞岡崎宏三「アラスカ物語」「ねむの木の詩がきこえる」


「アラスカ物語」「ねむの木の詩がきこえる」の2作品で優秀賞受賞。前者では-30度にも及ぶ大自然との闘いで、後者では子供達の心をどう掴むかという点で、形の違う苦労があったという。機材を冷凍会社の倉庫へ持込んでの撮影研究、カメラを意識しなくなるまで子供達と遊んだという彼の熱意が、これらを見事に克服。撮影歴42年、映画だけでなく、ドキュメンタリー・スポーツニュースカメラマンなど豊富な経験が作品に生きている。(大正 8年)
優秀賞木村大作「八甲田山」


受賞作品「八甲田山」では、きびしい自然の中でのいいしれない苦労が報われて、三浦賞も受賞した新進気鋭の撮影監督。雪の八甲田を追い続けること三年、使用したフィルムは30万フィートを越したという。撮影は零下21゜、風速17mの猛吹雪のなかで進められ、本物の雪の中でねばりにねばったスタッフの熱気が迫力ある場面をつくりだしている。氏が撮影の技術的批評に対して、あえて否定も肯定もしなかったのは、氏自身のエネルギーを賭けた“自負”があったからだという。(昭和14年)
優秀賞黒田清己(撮影) 「竹山ひとり旅」


日活、大映京都撮影所を経て、現在フリーカメラマン。「自然の美しい光と影の中に、厳しいドラマ性を追求する作品内容が好みに合う」と語る。猛吹雪の中でのカメラ機材移動には参ったといいながらも「竹山ひとり旅」について、大正・昭和初期の東北という時代色と津軽の色彩をどう表現するかに考えを絞った。そのため、できるだけモノクロームの良さをカラーフィルムに表現できないものかと苦心したという。(大正14年)
優秀賞村木忍「悪魔の手毬唄」「獄門島」


人里派離れた地方の旧家を舞台に展開される「悪魔の手毬唄」の仁礼家と由良家、「獄門島」の鬼頭家。人間の怨念と血の系譜が、旧家の威圧的で時間の流れを感じさせるいかめしいセットで見事に表現された。村木女史の作り出すセットは、埃の染みついた床板や襖から凝った食器の類まで細心の注意がはらわれて、本鬼頭家大屋敷の全景の絢爛さは、観客の目に焼きついている。また美術関係者の間では「『忠臣蔵』以来の豪華セットだ!」と評判。(大正12年)
優秀外国作品賞
最優秀賞ロッキー


無名の俳優スタローン自身が3日間で脚本を書き低予算で作りあげたこの作品は、素朴なアメリカン・ドリームが人々の心をうち、全米はおろか日本でも大ヒットした。気はいいが、ヤクザっぽく捨てばちな青春を送ってきた4回戦ボクサー・ロッキーは、世界ヘビー級選手権の挑戦者に名指される。彼は恋人アドリアンへの永遠の愛のために、勝ち目のない試合を最終ラウンドまで戦い抜いた。試合後、誇らかに恋人の名前を呼ぶ彼の声が…。(ユナイテッド・アーチスツ)
優秀賞鬼火


「死刑台のエレベーター」で衝撃的なデビューを飾り、その古典的教養あふれる成熟性ときらびやかな才気でヌーヴェル・ヴァーグ派のなかでも鬼才と目されたルイ・マルの長篇第5作で、ベネチア映画祭審査員賞を受賞。ルイ・マル芸術の一頂点をなす傑作との評価が高い。繊細な白黒映画のパターンの中で、死にとりつかれた主人公アランの内面世界が克明に描かれていき、異常なまでの緊迫した美しい映像世界をつくり出している。(フランス映画社)
優秀賞さすらいの航海


この作品はナチスの政治的謀略によって、苛酷な運命をたどったセントルイス号の悲劇を記した原作をもとに映画化された。全世界から見捨てられた937名のユダヤ人を乗せて大西洋をさすらう船。乗客に襲いかかる各国の冷酷な政治状況。その中で、船長をはじめ乗客の国籍・人種を超えた美しいヒューマニズム的結合が、誇り高い人間ドラマにしている。ヒロイン役を演じるフェイ・ダナウェイの堂々たる風格が見ものである。(日本ヘラルド)
優秀賞スラップ・ショット


名匠ロイ・ヒル監督とポール・ニューマンの名コンビが作り出した快作。人気沸騰のアイスホッケーリングの上で、傷害罪すれすれのラフプレーをものともせぬ、タフで、クールで、そのくせちょっぴりセンチメンタルな男たちを、面白おかしく描いた人生讃歌でもある。リンクの上で一切のスタントマンを使わなかったニューマンのスティックさばきと、女性が書いたシナリオとは思えない野卑なスラングの応酬が、魅力ある作品にしている。(CIC)
優秀賞ネットワーク


「視聴率が下がれば殺される!」ひたすら視聴率獲得のためにしのぎをけずる全米巨大ネットワーク・システム。名ライター、パディ・チャイエフスキーが、現代アメリカTV界の機構と様相に鋭くメスを入れた衝撃の作品である。冷酷な組織の下で、視聴率獲得のためには手段を選ばぬ苛烈な女性プロデューサーにフェイ・ダナウェイ、作られた人気と気づかぬ悲劇のニューズ・アンカーマンに故ピーター・フィンチが、それぞれ好演している。(ユナイテッド・アーチスツ)