レビュー一覧
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大内さん(女性/49歳/イラストレーター)「SOMEWHERE」 4月4日 シネ・リーブル池袋にて |
この映画は何もないカラッポなグラスに大切なのもがだんだんと注がれていく…そんな作品だった。 ソフィア・コッポラの作品は観る度に常に後味の悪さを感じつつもどこか登場人物に心惹かれてしまう……そんなところが大好き。この映画も冒頭、殺風景な中をフェラーリが爆音をたててただ走り回っている…。そんな虚しさから始まりそしてその空気感を漂わせつつ場所をハリウッドセレブ御用達のホテルへと移す。ふと「ロスト・イン・トランスレーション」(2003)を思わせる……あの虚無感。この監督はそういう感覚を言葉で説明するのではなく、ある限られた場所での生活や不透明な映像や音楽で感じとらせてくれる。 役者もうまかった。セレブなのにいつもなぜか疲れっぽくて、笑っていても心の底からでなくどこかため息をついている…。だが彼自身そんな自分に気付いていないのだ。観ていてこちらまで虚しくなってくる。それが、別れて暮す娘と再会し過ごす日々の中でどんどんと失っていたものが満ちてきて…。そんな彼の気持ちの変化や父娘の関係をお決まりのやたらに涙を誘わないところがとても小気味いい。 そして「SOMEWHERE」…このタイトルを思わせるエンディングがたまらない! いつもの後味の悪さはこれぽっちも感じないこの監督の新境地を見た感じがする。この4月にしてBEST1に匹敵する作品だった! |
川上 望さん(男性/59歳)「漫才ギャング」 3月19日 角川シネマ新宿にて |
品川ヒロシ監督第2作「漫才ギャング」を観た。なかなか痛快な映画だった。全篇登場人物が2・3名の画面は、漫才を見ているようで、笑いどころ満載の作品に仕上がっていた。 留置場で偶然一緒になった不良の龍平と漫才コンビを組む主人公飛夫。この二人が漫才の練習をして舞台に立つシーン。龍平に絡んで、チンピラ達と格闘するシーン。元相方との別れと再コンビ結成後の漫才シーン。その2人に借金取りの金井が絡むシーン。全てが微妙な計算の上で画面構成され、見飽きることなく楽しめた。 飛夫に漫才を続けさせるために龍平は自ら身を引き、対立する不良グループと方を付けようとする。最後のクライマックスは公園での乱闘。さまざまな状況が絡み合い、乱闘の末に、物語は最終シーンを迎える。最後も謎を残して、漫才のシーンで幕を閉じる。漫才に始まり漫才に終わる。監督品川ヒロシの漫才愛の詰まった作品だった。 全篇を貫くのは、人は変われるという人間愛のメッセージ。セリフの中にも、それが何度も出てきたし、登場人物が成長するドラマ仕立ても、よく出来ていた。由美子と飛夫の恋愛シーンはやや臭かったが、漫才を前面に出し、登場人物の成長の中に感動のドラマを描ききった一品は、なかなか味わい深いものだった。心底笑って泣いてさわやかな気分で、私は、初日の3月19日、新宿の劇場を後にしたのだ。 |
後藤さん(女性/37歳/主婦) 「ツーリスト」 4月8日 |
いいよ、いいよ~、この軽い感じ、中身のない感じ。観始めてすぐに結末が読めてしまうのも、許せてしまうゆる~い映画です。 真面目に何かを深く考えたり、心底ハラハラドキドキしたりせずに、ポップコーンとコーラを飲みながらただ気楽に映画を観たいなら持ってこいの作品。そして、この映画を観た時の私はまさにそういう気分だったので、良くも悪くも期待を裏切られた思いでした。 ジョニーデップの田舎風味な小太り姿も、なかなか可愛かったです。でも、どうせなら、せっかく主役がビッグスターなんだから、ついでにもっとパリやベニスの綺麗な風景をバンバン見せて、もっと楽しませて欲しかったかな。 |
佐藤 由美さん(女性/会社員)「塔の上のラプンツェル」 3月27日 TOHOシネマズ有楽座にて |
月並みな言い方をすれば、子供も大人も楽しめる。 ディズニー映画。でも、やはりワクワクせずにはいられない。3Dメガネを受け取ってシートに座ればそこはTDLのアトラクション! 「白雪姫」(1937)から50作品目の長編アニメーション。表現の仕方は随分変わったけれど、フルCGで魅せるドレスの光加減、髪の毛のなびき方、お人形のようなクリクリした瞳、そして、なにより美しいランタンの幻想的な灯り……基本はまったくブレていません。 今回の設定は、塔に囚われの浮世離れしたお姫様と大泥棒の王子様。そして、この物語のテーマは「夢に向かう一歩」だと思う。「夢」の誇張がラプンツェルで、その夢に囚われた「欲望」の誇張が母親ゴーテルではないだろうか。ディズニーの得意とする部分だろう。分り易い子供向けに映るかもしれないが、人の本質である。仲間も信用しないアウトローな大泥棒・フリンがラプンツェルに次第に惹かれていくのも、ラプンツェルに自分の夢を見たから(この下りは外せないっしょ!)。 ラストは見てのお楽しみとして、エンドロール終了まで席を立たないでほしい。ピクサーのような「お楽しみ」はないが、アラン・メンケンの優しく力強い音楽を聴いて、TDLを去り難いあの心地よさを味わってほしい。 |
玉川上水の亀さん(男性/51歳/会社員)「トゥルー・グリット」 3月9日 試写会にて |
この作品は、「ノーカントリー」(08)でアカデミー賞作品賞を受賞したジョエル&イーサン・コーエン兄弟が監督し、スティーブン・スピルバーグが製作総指揮をした強力タッグのリメイク映画である。アカデミー賞を受賞出来なかったが、「英国王のスピーチ」の12部門に次ぐ10部門にノミネートされた事が、この作品の素晴らしさを裏付けしていると思う。 オリジナルは、ジョン・ウェインにオスカーをもたらした名作「勇気ある追跡」(1969)である。前作が、ジョン・ウェイン演じるルースター・コグバーンを主役とした作品であったとしたら、今回の作品は、ヘイリー・スタインフェルドが演じたマティ・ロスを中心に据えて描いている。ジェフ・ブリッジス、マット・ディモンと云う名優二人を向こうに回して、演じた当時13歳だったヘイリー・スタインフェルドが放つ凛とした存在感が凄い! 助演女優賞は受賞出来なかったが、この少女が将来どんな女優に成長していくのか、とても楽しみだ! ハードボイルドタッチの西部劇を縦軸に、仇討ちを目指す少女とそれをアシストする二人の男達との心の交流を横軸に描き、作品に深みを与えている。美しい自然の描写もさることながら、心に余韻を残すラストが素晴らしい! |