レビュー一覧
|
髙安 杏さん(女性/19歳) 「ミュージアム」11月24日 新宿ピカデリーにて |
サスペンスだと主役以上に犯人に期待をする私はカエル男がずっと気になっていた。普通なら犯人にたどり着くまでが物語となるのだが、これはカエル男が犯人だと知りながら展開していくので、今までとは楽しみ方が違うのだ。カエル男は殺していく死体に「~の刑」と書かれたメモを残す。被害者の罪を用意して実行するには、彼らを知り尽くす目的があるのだと思った。一体誰をターゲットに何のために殺しているのか。私はサスペンスやホラーでしか味わえないハラハラする映画が大好きでよく観るのだが、久しぶりに面白い犯人に出会えた気がして嬉しかった。それを踏まえた上でこの作品の見所を2つあげたい。 1つ目は役者の演技力だ。特に妻夫木聡は演技というより変化というのか、驚かされるばかりだった。最近公開された「怒り」では、ゲイの役として優しい眼差しで人を愛する姿が印象的だったが、今回は本当に同じ俳優なのかと疑ってしまうほど違った。次は何を起こすか分からない狂気じみた目つきが忘れられない。また、小栗旬の役も追い込まれる姿が痛々しい。家族をもう一度つかもうとしてあがいても手に入らない後悔がこちらまで伝わってきて、胸が苦しくなる。仕事ができる刑事からいつ人を殺してもおかしくないような形相になっていくところに目が離せなかった。もしかしたら、彼はカエル男と似た部分があるのかもしれない。 2つ目は手加減していない演出だ。殺人現場の匂いがここまで届きそうなくらいにリアルで、事件が起きる度にひしひしと恐怖が迫ってくるように感じた。カエル男の殺人は、「僕はアーティストなんだ」と言うほどこだわっているものばかりだ。それを生々しく表現することで嫌でも人に強い印象を与えている。大友啓史監督の作品は「るろうに剣心」シリーズで観たことがあるが、人間の汚らしさや美しくも激しいアクションがどれも好きだった。今回はアクションではなく演技の迫力が最高だ。役者の演技はもちろんだが、彼らを映えさせる監督も凄い。ぜひ劇場でしか味わえない重々しい空気と面白さを堪能してほしい。この作品を鑑賞した後は、自分の家族だけではなく周りにいる人の大切さを噛み締めたくなるに違いない。 |
はるかさん(女性/25歳) 「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」 12月2日 TOHOシネマズ日劇にて |
私の大好きな映画「プラダを着た悪魔」(06)のメリル・ストリープさん主演ということでずっと楽しみにしていた本作。メリル・ストリープさん演じるフローレンスがヒュー・グラントさん演じる夫のシンクレアと共に、ある舞台に立つところから映画は始まるのですが、そのフローレンス登場の演出がなんともチャーミングで思わず笑みがもれ一気にフローレンスの人となりを感じることが出来ました。「プラダを着た悪魔」の厳しい上司の面影は全くなく、天然でお金持ち、音楽が大好きだけど音痴なフローレンスそのもので、本当にすごい女優さんだなと思いました。 音痴だけどお金でいろいろなことを解決しながらコンサートを開く主人公。見方によっては、お金持ちが好きなことをやりたい放題やっているというような印象を持ちそうな内容ですがそれを感じさせない不思議な魅力で溢れていました。例えば、歌の練習のシーン。音痴なフローレンスの歌が初めて聴けるのですが、その音痴具合に、伴走者役であるサイモン・ヘルバークさんの表情も加わって、思わず声を出して笑ってしまう観客も多くいました。 しかし魅力的なのがその歌を歌っているメリル・ストリープさんの自信に溢れている表情です。自分のやりたいことを思いっきりやっている姿に、いつの間にか、もっと見たい、応援したいと感じさせられました。その魅力が映画の登場人物たちにも同様に伝わっていくことで、フローレンスが舞台上で困惑してしまうあるシーンでは思わず大号泣してしまいました。 さらに、この映画を盛り上げるのがヒュー・グラントさんとサイモン・ヘルバークさん。どちらも演技力抜群で、サイモン・ヘルバークさんの表情によって何度も笑わされたり、逆に同じような表情なのに心情の違いが上手く出ているシーンではグッときたり一緒に嬉しくなったりしました。また夫のシンクレアはフローレンスを支えながらも少し何を考えているのかわからないなと思うシーンもありました。しかし、逆にそこが完璧じゃない人間らしさが垣間見えているような気がして、説明的な表現がない分想像が膨らみ、後半に行くにつれてどんどんフローレンスへの愛を感じました。ヒュー・グラントさんのダンスはとても素敵でした。 上手いとか下手とか、お金があるとか無いとかではなく、行動することで人の心を動かしたフローレンスという女性の実話を元にした映画。笑って泣けて勇気と元気がもらえる、暖かい映画です。ラストのフローレンスのセリフは私にとってとても大切な言葉になりました。 |
陳 珍九さん(女性/38歳) 「PK」 12月2日 YEBISU GARDEN CINEMAにて |
あのビル・ゲイツが対面を熱望したという、インドの福祉や教育などの社会問題にも取り組む俳優アーミル・カーン。日本でも人気だった「きっと、うまくいく」(09)で主役ランチョーを演じたインドの国民的俳優と言った方が、映画ファンにはピンと来るかもしれませんね。彼が「きっと、うまくいく」のラージクマール・ヒラーニ監督と再びコンビを組んだのが「PK」。笑って泣ける極上のコメディ&恋愛映画と思いきや、実はタブーとされる話題・宗教に真正面から疑問をぶつけていく社会派の大問題作でもありました。 ちゃんと質の高いエンターテイメントに仕上がっているのは、純粋な心で切実に「行方不明になっている神様たち」を探す謎の主人公・酔っ払い=PKのおかげ。自分の神様探しに周囲をどんどん巻き込み、最後には国内大論争に発展させてしまいます。観ている私も彼の虜になっていき、愛らしく切ないPKの奮闘ぶりに目が離せませんでした。PKをただの変な奴ではなく魅力的にしたのは、アーミル・カーンの演技力の賜物でしょう。アクションもこなし、イケメンから可愛いおバカキャラまで演じる彼ですが、更にあの肉体美で51歳と聞けば母国でMr.パーフェクトと呼ばれる理由がわかります。1988年生まれのヒロイン・ジャグー役アヌシュカ・シャルマと並んでも全く違和感無し。初々しく活動的でキュートな魅力のジャグーと純粋一途で可愛いPKが素敵な化学反応を起こし、2人の絆が育まれていく様子に心が温まりました。 インドでは多数の宗教が混在し、この作品の上映禁止運動を行った団体もいたそうですが、逆に多くの人が観られる様に遊興税を免除した州もあったそうで結果的には前作「きっと、うまくいく」を超える国内映画史上最大のヒット作に。 前作も「PK」もインド国内の社会問題に一石を投じていますが、世界的に反響が高いのは人が生を享けた事に感謝し幸せに生きる為の普遍的な教訓に通じるからだと思います。「PK」では「権威ある物や存在・その教えをそのまま鵜呑みにしないで、自分の心と頭で1度純粋に考えてみよう。そして少しだけ勇気を出して正しい選択をしよう」と監督とPKが愛を込めて語りかけてくれていますが、それは私を始め今の日本にも必要な大切なメッセージだと感じました。 ボリウッド映画というと唐突なダンスと歌を嫌煙する方もいますが、「PK」では感情の高まりと共に自然な感じで出てくるので違和感ありません。歌って踊るジャグーとPKの無邪気な笑顔は、私の凝り固まった頭と心を優しくほぐしてくれました。 |