レビュー一覧
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森泉涼一さん(男性/28歳) 「起終点駅 ターミナル」 11月7日 新宿バルト9にて |
「起終点駅」という聞きなれない言葉がタイトルとなっている本作だが、「一つの終わりは新たな始まり」と聞けば、これは誰もが共感できるフレーズではないだろうか。 本作に登場する人物たちは、悩みや問題を抱えながらもそれに対して逃げ続け殻に閉じこもっている。この「逃げている」というのがポイントであり、ではどうやって抜け出しそこを起点と考えたのかいうのが最大の見所である。個人の依頼は一切引き受けないという国選弁護人の鷲田完治(佐藤浩市)、犯罪者で執行猶予中の椎名敦子(本田翼)をはじめ、他にも何かの事件に関与している者ばかりだが、サスペンス要素はあまりなく食べる、寝る、話すといった日々の必須項目が焦点となっており、そこから彼らの心情を読み取ることによりこの映画の深みが増してくる。特に食に関しては一人暮らしの中年オヤジが料理する範囲外の絶妙な家庭料理を作る上に舞台となった北海道・釧路の名産物も次々に現れる。「リトル・フォレスト」(14&15)にも負けない庶民の料理とそれらをペロリと平らげる姿を鑑賞するのは空腹厳禁と言いたいところだが、この映画を深く知り尽くしたければ見逃しも厳禁である。 日本が誇る実力派俳優佐藤浩市と新進気鋭の女優本田翼の共演は、本作のコンセプトでもある「人間の再生」を活かせるキャスティングだ。個性も違えば実力も天と地の差だが、これが役にどのような形で反映されていくのか。難しい役どころだからこそ見応えは十分にある。そして二人を周囲で固める尾野真千子、泉谷しげるといったベテラン俳優陣もそれぞれの役どころが難しいことには変わりないだけに卓越した演技を垣間見れるのも魅力的に感じる。 |
水姫クミさん(女性/30代) 「マイ・インターン」 11月5日 丸の内ピカデリーにて |
この映画を観たのと観ていないとでは、これからの人生の輝きが、違ってきてしまうのではないかと思うほど、上質な作品です。舞台はニューヨーク。ファッションサイトの社長として華やかな業界に身を置き、結婚もして、可愛い子供もいて充実した毎日、現代女性の理想を絵に描いたような人生を送るジュールズ。そんな彼女のアシスタントにやってきたのは、会社の福祉事業として雇用することになった “シニア”インターンのベン。初めのうちは40歳も年上のベンに何かとイラつくジュールズでしたが、やがて彼の心のこもった仕事ぶりと的確なアドバイスを頼りにするようになります。そんな時、ジュールズは仕事とプライベートの両方で思わぬ危機を迎え、大きな選択を迫られるのですが…この後は是非、劇場で観て頂きたいです! まず感じた事は、ロバート・デ・ニーロの演じるベンが、可愛く思えて愛おしいのです。演じているという言葉が失礼と思えるくらい、ベンを生きていると思いました。ベンの前向きな言葉や歳を重ねても生きがいとチャレンジを忘れない姿勢、適切なアドバイスに周りの若者達が影響され成長していく姿も実に微笑ましいです。また、アン・ハサウェイのジュールズが本当にチャーミング。立場や役職は違えど、同じ年代、同じ女性なので、たくさん共感でき、「わかるよ、そうだよね」と思わず抱きしめたくなります。頑張り屋さんのジュールズに誰もが味方することでしょう。 美しく流れるような展開とドキドキ、ユーモアと優しさに満ちた世界観、ニューヨークの綺麗でお洒落な映像美に目も心もスクリーンに釘付けになりました。脚本と監督のナンシー・マイヤーズに拍手を送りたいと思ったほど。そして、注目して頂きたいのが、ジュールズのオシャレで可愛くて洗練されたファッション。けしてカッコつけすぎでも、奇抜でも派手でもない。ナチュラルでシンプル、上品でステキな色使いのファッションは、すぐに真似できそうで、女性からも男性からも好感を持たれると思います。ベンのファッションも忘れちゃいけません。鞄や時計、スーツやネクタイ、ハンカチなど、上質な大人の男性といった感じで、とても素敵。男性も必見です。 全ての年代の方がキラキラと元気に輝くための、人生の先輩からの幸せへのアドバイスが沢山詰まった贈り物のような作品です |
美菜さん(女性/40代) 「わたしの名前は...」 11月6日 角川シネマ有楽町にて |
「わたしの名前は...」ファッションブランドagnès b.のアニエスベーが監督した作品。この映画のメインは少女とトラック運転手の男性。その2人の逃避行とでもいうような旅。 普通の旅ではないから幸せそうなのに、つきまとう不安。悲しい物語だと思うのに、観終わった後に幸せを感じた。悲しみや絶望を抱えた二人が心を通わせていく姿や少しずつ親密に柔らかになっていく雰囲気がじんわりとしみる。私自身も最初は少し緊張していて、それが観ていくうちに少しずつリラックスして楽しくなっていった。 人は出会うべき時に出会うべき人と出会うといつも思っていて、それがほんのすれ違いのような出会いだとしてもそのひとときに救われたり背中押されたりするとも思っているので、この映画を観ながらこれはそういう出会いになるんだろうなと思った。逃避行はそのままでは続かない。このままずっとこんなふうに旅が続いたらいいのにと観ながら願っていた。ずっとこの二人でいられたらいいのに… 少女役のルー=レリア・ドゥメルリアックもトラック運転手役のダグラス・ゴードンも今回が初めての映画出演のようで、それがとても不思議になるような自然な二人がとてもよかった。この先10年20年たった時に映画の全体は覚えていないかもしれないけど、この映画は心の中にずっとあるような気がする。そんな映画だと思った。 |