レビュー一覧
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北 奈々さん(女性/30代) 「ユリゴコロ」9月27日 新宿バルト9にて |
真紅に彩られた衝撃的なシーンの数々に思わずハッと息を呑みました…熊澤尚人監督の映画「ユリゴコロ」。沼田まほかるによるベストセラー小説が原作の作品です。 この映画を支えるのは二つの物語。一つは、松坂桃李演じる青年・亮介をめぐる話。レストランのオーナーシェフである亮介は、多くのお客様に恵まれながら優しい恋人もいて幸せな日々を過ごしていました。しかし、その幸せはある日絶望へと突き落とされます。突然の恋人の失踪。父の病気。そして、実家で偶然見つけた1冊のノート…。手書きでびっしりと書き込まれたノートに、彼はなぜか惹かれるように読みはじめてしまいます。そのノートの中身こそ、吉高由里子演じる美紗子を描くもう一つの物語。美紗子の幼少期から綴られた告白のような内容は、あまりにも暗く、陰鬱で、凄惨な話ばかり。しかし、その妖しい魅力に亮介は少しずつ影響されていきます。そして、この二つの物語が交互に語られることで、最終的に一つの物語へと繋がっていくのです。 この作品の素晴しさは第一に映像美があります。人を手にかけることに躊躇しない美紗子を描くシーンでは、象徴的な真紅の色で彩られることが多く、ぞっとするような美しさがあります。また、恋愛における表現では独特の世界観があり、映像の一つ一つがまるで絵のような鮮やかさもあって、艶のあるシーンがとても印象的です。もう一つは、謎解きのような展開。ノートは作り話か真実なのか?亮介の恋人はなぜ消えたのか?美紗子と亮介の物語はどう繋がるのか?最後まで一転二転する展開に目が離せません。 この映画は、ミステリーというよりも純粋な『愛』を巡る作品です。それは、恋愛だけでなく、自己愛、友愛、親子愛など、さまざまな『愛』が絡み合って一つの物語をなしています。最後に、タイトルにもなっている『ユリゴコロ』とは何か?もちろん、この作品における意味は映画の中で見つけることはできます。しかし、この問い自体は実は映画鑑賞後にあなた自身にも投げかけられているのかもしれません。私は私の、あなたにはあなたの『ユリゴコロ』がある。それはいったい何だろうかと考えてみる、という面白さもまたこの作品の魅力の一つなのではないでしょうか。 |
石田桃子さん(女性/10代) 「僕のワンダフル・ライフ」10月2日 T・ジョイSEIBU大泉にて |
犬を飼っていて犬が大好きなので、ずっと観たいなと思っていました。監督は、忠犬ハチ公の実話を映画化した「HACHI 約束の犬」(09)など、犬をテーマにした作品を数多く手掛けている、ラッセ・ハルストレム監督です。 この映画は、ベイリーという犬の物語です。飼い主はイーサンという少年で、イーサンに命を救われたベイリーが、転生を繰り返しながら自分の使命に気づく、という話です。予告編を観た印象では、イーサンに再び会う為に何度も生まれ変わったという話なのかと思っていましたが、その時々の飼い主の人のこともとても大切に思っているところが、とても犬らしく自然に描かれていて良かったです。犬と飼い主の絆を通して成長していく姿や、飼い主を一途に想い続け無償の愛を捧げる犬の姿に、心を打たれました。 また、犬と飼い主の関係だけでなく、家族や友人との人間模様や、恋模様も描かれていて見所がたくさんありました。出演している犬たちのキュートだったり、切なかったりする仕草や表情が、とても自然でリアリティがあり、名演技でした。 「生きることの意味ってなんだろう?何か理由があって、この世に生まれてきたのだろうか?」というベイリーの言葉は、とても心に響きました。 犬の命の灯火が消え、最期を迎えるシーンでは自分の犬と重なり涙が止まりませんでした。特に今犬を飼っている人や、昔犬を飼っていた人にとっては、とても感動的だと思いました。物語が犬目線で描かれており、劇中ずっと犬の心の声が台詞として語られているので、私の飼っている犬もこんなこと思っているのかな?と思い、今まで以上に愛しくなりました。そして、改めて愛犬と過ごすかけがえのない時間を大切にしようと思いました。犬が好きな方にも、そうでない方にもぜひ観ていただきたい、心温まる素敵な映画でした。 |