レビュー一覧
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川澄典子さん(女性/38歳) 「きみはいい子」 6月29日 横浜ブルク13にて |
映画「悼む人」(15)での演技を観て以来、俳優・高良健吾の次作を心待ちにしていた。そして私は、呉美保監督の『人が食事をする姿』の撮り方がたまらなく好きだ。監督の「そこのみにて光輝く」(14)の世界に浸りたくて、三度も映画館に足を運んだ。注目していた俳優が主演の呉監督作品「きみはいい子」を公開前より心待ちにしていた。 作品観賞中、こんなにも激しく泣いたことがあっただろうか。作品観賞後、こんなにも愛する人を抱きしめたいと深く感じたことがあっただろうか。 成長していく小学校教師を演じている俳優、高良健吾に良い意味でまたしても裏切られた。彼は本当に役を演じているのだろうかと疑った程だ。ある一人の人間が、周りの支えと自らのもがきによって変わって行く姿は、人は何の為に生きるのかを示してくれているように感じた。女優、尾野真千子演じる世界一愛しているはずの娘への虐待を止められない母親の姿を目に焼き付けた。目を背け、耳を塞ぎたくなるような場面であったが、一瞬たりとも見逃がすまいと誓っていた。現実にこのような子どもがいるということを呉監督、そして尾野がどのように表現し、訴えているかを知りたかった。それは言葉を失うような悲しく辛いシーンであったが、被害を受けている子どもが救われるには、何が必要なのか、私たち大人に出来ることは何であるのかを考えながら生きて行く道を示してくれたと思う。 子どもはその存在が家族はもちろん社会に祝福されるべき存在である。そして子どもはどんな親であっても大好きで、その親に愛して貰いたいと思っている。私たち大人もかつて子どもであり、そう感じていた。きっとその気持ちは大人になった今でも変わらない。人は愛されて生きてゆくものだ。この作品を観てそう感じた。 |
水姫クミさん(女性/30代) 「愛を積むひと」 7月6日 丸の内ピカデリーにて |
世界中の夫婦の方たち、これから夫婦になる方たち、夫婦を経験した方たち、全世代の人が観たらいいのにと心から思います。 原作は、エドワード・ムーニー・Jr.の小説「石を積むひと」です。北海道で第二の人生を過ごそうとする夫婦が、改めて自分たちの愛情や絆を見つめ直す姿を佐藤浩市さんと樋口可南子さんが、とても素敵で感動的に演じています。ヒューマンドラマなので当たり前かもしれませんが、派手なアクションやいま流行っているようなヒーロー、世界を滅ぼす悪者や凄いCGなどは出てきません。だけど、普段の何気ない生活の中で、どんな時でも支え合い、自分の傍に居てくれる人が、自分にとって本当のヒーローやヒロインなんじゃないか…と感謝の気持ちと共に気付かせてくれた作品です。原題の「石を~」を今回の「愛を~」としたのは、ピッタリで大正解だと思いました。 樋口可南子さんが演じる良子が、もう、なんというか、菩薩様の様な天使の様な、それでいて可愛らしさもあり、理想の奥さんでした。私も、良子の様になりたいです。また、北海道・美瑛町の美しい大自然と四季に癒されます。中でも、良子と杉咲花さんが演じる紗英が、キノコ狩りをする紅葉した森の美しさは圧巻です。良子が夫・篤史に残した手紙が読まれるたびに涙が込み上がりました。悲しみと感動に包まれた劇場をクスッとした笑いで、フワッとした空気にしてくれる柄本明さん(紗英の義父役)が魅力的で、お芝居の間といい流石だなぁ、素晴らしいなぁと再認識しました。篤史の家の石塀作りを手伝う青年・杉本徹を野村周平さんが演じています。「ビリギャル」(15)にも出演されていましたが、今時の青年の悩みや葛藤、心情の移り変わりを演じられる俳優さんだと感じました。 登場人物が誰一人、完璧ではないことが、この作品の魅力の一つであり、共感が持てるのではないでしょうか。誰だって、何かしら問題を抱え、人には言えないことが一つや二つはあることでしょう。それでも、ロクでもない人間なんて本当はいないはずです。私は、この映画を観て、愛を積むために何ができるだろう、何が残せるか、考えて生きていきたいと思いました。夫婦の愛に溢れたストーリーと美しい日本の自然。日本の映画って素敵だと、改めて思える、心が浄化される作品です。 |
美菜さん(女性/40代) 「Mommy/マミー」 5月24日 恵比寿ガーデンシネマにて |
グザヴィエ・ドランという人の描く世界が好きです。中でも「私はロランス」(12)と「トム・アット・ザ・ファーム」(13)には魅了されました。だから最初からとても期待して観に行った作品です。 彼がずっとテーマとしている母親と息子との関係を真っ向から描いた作品。受け取る側の私は自分が母でも息子でもないからかもしれませんが、もっと広く人との関係として観ていました。お互いに愛情を持っているのだけど一緒にいることが難しい。もしこうなってくれたら一緒にいられるのにと思っても、それはその人でいることを否定することであったり。反対側では求められる姿へなれない自分への苛立ちであったり。母と息子だから簡単に切れる間柄ではないから余計にそれは際立つのでしょうけど、恋人や夫婦や密接な友人との間でさえ起こりうるのではないかと思いました。一部だけ内容に触れてしまったかもしれませんが、もっと他にもいろいろ感じる部分はあったし、きっとどこをより観るかも人によって違う映画だと思います。 心をぎゅーっと締め付けられるようなシリアスな内容ながら画面の色彩が優しく撫でていってくれるようで、だからこそ観られるとも思いました(これは監督本人の狙いでもあったようです)。彼の映画の画面にはいつも目障りなものが写りこんでいない印象があって、小道具や背景やがきれいな画を作っていると思います。そういった画として魅きつけられることも彼の映画を観たいという大きな理由とも言えます。 グザヴィエ・ドランという人と私との境遇に似たところはほとんどありません。描かれる内容もそのまま同じところはありません。だけどいつも心の奥のほうをぎゅっと掴まれる感じがします。この映画もだいぶ前に観たのにレポートを書こうと思い出した途端に内容を次々に思い出しては涙が出てくる具合で、でもそれは映画のシリアスな内容に対しての反応というよりはそこで動かされた自分の心の中への反応でした。そんなふうに心を掴まれるので、今後も彼の作品を観続けたいと思うし、受け取れる同じ時代にいられることが幸せだと思います。 |