レビュー一覧
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藤野薫子さん(女性/20代) 「パターソン」8月26日 ヒューマントラストシネマ有楽町にて |
繰り返す日々、だけどその毎日はいつも新しい。この作品はそのことを優しく、そっと感じさせてくれる作品です。映画のタイトルにもなっていますがこの作品はパターソンという男の日常、その七日間を描いています。毎朝起きて、バスの運転手として働いて、終わったら家に帰り、愛犬の散歩とその途中におきまりのバーに寄って1日を終える。月曜から始まり、また月曜が始まるまでほとんど同じサイクルで過ごすパターソン。 そんな毎日を描くこの作品の魅力の一つに『詩』があります。基本的にパターソンは受け身で、毎日のそれぞれのシーンに登場する人々やそこで起こる出来事に影響されているのですが、そんな中パターソンが日々物事をどのように捉えているのかを感じさせてくれるのが、彼が毎日習慣として行なっている詩の創作です。日常から感じることを詩にしてだんだんとそれをノートに書き進めていくのですが、その内容はとても繊細で優しく、自分の日常もそんな風に表現することができたら素敵だなと思いました。 そして彼が出くわす人々や出来事がまた魅力的なのですが、永瀬正敏さんがパターソンと詩に大きく関わる部分に登場されているので、ぜひ注目してもらいたいです。もし毎日が同じようでちょっと退屈に感じたりしていたら、ある男の毎日から自分の毎日を静かに感じてみるのはいかがでしょうか。私自身今まであまり詩には触れてこなかったのですが、作品を通してちょっと詩に興味を持ちました。自分の中に新たな広がりを感じて、毎日が新しいというのをその場で感じることができて嬉しかったです。 本当に映画といっても1つ1つの作品はどれも異なっていて、様々なスタイルがあるなとよく思います。この作品は言ってしまうとある男の日常をただただ眺める。そんな作品です。それの何が面白いのと思われてしまうかもしれませんがそうではなく、そんなスタイルの作品もあるのか、どんな作品なのだろう、と逆に興味を持っていただきたい。鑑賞中はとても落ち着いた、心地の良い時間が流れ、それが映画館というあの真っ暗で静かな空間にぴったりなのです。主演のパターソンを演じているのはこの冬上映予定の「スター・ウォーズ」シリーズの他にも多数の話題作に出演しているアダム・ドライバー、そんな彼の今までとまた一味違った役を演じる姿にもぜひ期待して劇場に足を運んでみてください。 |
富元靖雄さん(男性/30代) 「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」8月28日 新宿ピカデリーにて |
さまざまな映画に出会う中で、『実話』を題材にした映画が実にたくさんあるということに気がつきます。完全な作り話で製作された映画か、『実話』から製作された映画かで、映画を観る印象は多少なりとも変わるものですね。『実話』が基になっていると、その映画への感動、親近感、感情移入、衝撃などひとしおに身にしみるよう私は感じます。 さて、今回は『実話』がテーマの映画「ボブという名の猫 幸せのハイタッチ」をご紹介いたします。なんと茶トラの野良猫は、実話中の猫が出演ということも大きな魅力。人生に行き詰ったストリートミュージシャンのジェームズと、茶トラの野良猫ボブの心温まる奇跡の『実話』です。ジェームズは薬物依存で親に見放されながらも、路上演奏で生計を立てていました。しかし、必死なジェームズとは裏腹に、現実は厳しく食べることすらままならない日々を過ごします。そんなある日、突然出会いが訪れます。茶トラの野良猫ボブと出会うのです。初めはどこから迷い込んできたのかもわからず、ジェームズはボブの飼い主を探します。しかし飼い主は見つかることはなく、ジェームズはボブのためになけなしのお金を使って世話する中で、ジェームズとボブの生活がスタートします。運命の出会いとはまさにこのことなのでしょう、ジェームズはボブと出会ったことにより、さまざまなカタチで生きる希望とチャンスがもたらされ人生が一変します。果たして、ボブがジェームズにもたらした幸運とはどんなカタチなのでしょうか。 この映画の軸は、助けた野良猫に人生を救われるストリートミュージシャン、というところにありますが、その裏にはジェームズのひたむきに生きようとする姿、一度進むべき道を大きく反れたとしても大きなセカンドチャンスをつかむことだってできる、というメッセージが隠されているように私は感じました。そして映画を最大限飾ってくれるのが、茶トラ猫のボブです。何より、ボブ自身にとても癒されます。映画の副題にもなっていますが、ジェームズとボブの初めてのハイタッチのシーンには、笑いと愛くるしさで心がいっぱいになりました。ゴロゴロとのどを鳴らすボブ、曲を奏でるジェームズのそばを離れず、ギターの上にちょこんと乗っかったり、ジェームズの肩に乗っかっているボブが愛おしい。猫好きはもちろんのこと、そうでない人もボブから何かを感じ取れる映画です。加えて、そのサクセスストーリーだけでなく、ロンドンを舞台にホームレスの窮状や薬物依存者の苦痛をリアルに伝えてもくれます。 出会いがその人の人生を変える、人によってその大小はさまざまあれど、みんなお互いに繋がりあって生きているんだなぁと感じさせてくれる本作、鑑賞後にはほっこり温かな気持ちにさせてくれる映画です。 |