レビュー一覧
|
久保さん(男性/52歳/会社役員) 「リンカーン」 4月22日 TOHOシネマズ日劇にて |
私は以前、公立学校で教鞭をとっていた頃、毎年のように教科書の中で「Government of the people, by the people, for the people」というリンカーンの有名な演説を教えていました。誰でも知っている名言ですが、意外にそれ以上のことを知っている人は少ないのではないでしょうか。そこでスティーヴン・スピルバーグ監督作品、映画「リンカーン」です。アカデミー賞受賞作では最後の大物がついに日本公開ということで、早速見て参りました。 まずスピルバーグ自ら、この映画の時代背景などを日本のファンに向けて語る特別映像から始まります。冒頭こそ凄惨な南北戦争の戦闘シーンから始まりますが、それから後はほとんどが奴隷制廃止法案を議会で可決するための国会内での多数派工作を描いており、生い立ちから描くような偉人伝ではありません(上記の名言の演説シーンもなく、あえて兵士が思い出して口にするといった軽い扱いにしているほどです)。 主演男優賞に輝いたダニエル・デイ=ルイス、さすがです。議会の多数派工作のために裏工作をしたり、妻のヒステリーや息子との接し方で悩んだりする、本当に等身大の政治家リンカーンを私たちに見せてくれます。また下院での鍵を握るスティーヴンス役のトミー・リー・ジョーンズが素晴らしかった。最近日本では某CMで有名になりすぎて、若い人たちにはちゃんと名優だと認識されているのか心配ですが、この映画で面目躍如といったところでしょうか。 スピルバーグはこの映画でリンカーンをスーパーヒーローではなく普通の政治家として描くことによって、未来も理想も夢ではなく、人間の力で実現していくものなのだ、と我々に訴えているのだと思います。アメリカはそうしてきたのだと。ただ、この映画のラスト、リンカーンは銃弾に倒れますが、先日アメリカでオバマ大統領が提出した銃規制法案が上院で否決されたことを思い出しました。リンカーンもケネディも銃によって命を落としているにも関わらず、アメリカはまだその銃を規制できずにいます。ホワイトハウスでこの映画の試写が行われ、オバマ大統領も絶賛していたそうですが、ぜひ核兵器の削減や銃の規制など、次の世代に向けての理想をあきらめずに実現してもらいたいものです。 |
石津 修之さん(男性/57歳/会社員) 「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」 5月2日 試写会にて |
旬な映画俳優と優秀なスタッフが集結して映画を作る。俄然、傑作が出来上がる確率は高くなるが、それ以上に時代の先端を切り開き、流行すらも味方につけ、それらがさらに弾みをつけ勢いとなって映画のパワーを加速させる。 映画を見ている行為が喜びであり、わくわくするような時代とセンスの共有化に胸躍らせる。前作よりもストーリーや面白さやアクションが一段とパワーアップしている。謎解きの快感、数々の疑問がするするとほどけ解決していくプロセスが心地よい。また、何と言っても、主人公たちが狙われる勢力が三つあってどこから狙われても不思議ではないというプロットが秀逸である。ドラマ『リーガルハイ』(CX)の好調ぶりでのりに乗っている古沢良太の脚本力の成果だろう。 途中のポンコツ車でのカーアクションは、まるでルパン3世のカリオストロのような楽しいシーンとなった。探偵はポンコツ車こそよく似合う。大泉と松田のバディの息のあわないところもギャグになっており、絶妙なコンビネーションでの二人の大アクションシーンも映画館で見るべき爆発力を保持している。旬な俳優だからこその魅力全開だ。それにしても、松田龍平の最近の活躍は目を見張る。ドラマ『まほろ駅前番外地』(TX)でのゆるキャラも魅力的だったし、映画「舟を編む」(13)での寡黙なマジメ青年も驚きの収穫だった。本作品でも、ひたすらストイックでかつ必死には見えないが、本質はしっかり把握し、やるべきことも瞬時に判断でき、実はけんかも強いという、少し得体の知れないキャラクターはまさにはまり役だろう。そのうえメガネを含めたファッションやアクション、しぐさも無類にかっこいいというキャラは現代の若者が求める新しいスター像なのかもしれない。であれば、ひょっとすると松田龍平はかつて誰も辿ってきていない未開拓なゾーンを切り開き、従来の価値観では測れない未知なるスターの領域に踏み込むのかもしれない。 本作品は主人公大泉洋の代表作となることは間違いないが、2で終わることなく今後もシリーズ化してほしいものだ。エンディングタイトルで流れる曲は、鈴木慶一&ムーンライダーズの「スカンピン」だ。すすきのの夜のムードに実にマッチしている。 |
かつをさん(女性/40代) 「17歳のエンディング・ノート」 5月5日 新宿武蔵野館にて |
原題は『Now is Good』白血病で不治の宣告を受けた17歳の少女テッサの「その日」までいかに生きるかを描いた物語。「マリーゴールド・ホテルで会いましょう」(13)の脚本家オル・パーカーが監督・脚本を務めたイギリス映画。 学校にも行かず、家に閉じこもっていたテッサが「残された時間にやりたい事」をリストアップして親友のゾーイと行動に移す。それは「SEX」「DRUG」「法を破る」etc・・・という、ちょっとスリルがあるものがたくさん。万引きしてお父さんに嘆かれたテッサだけど、隣に引っ越してきた大学休学中のアダムに出会って恋をしてしまう・・・。テッサを演じたのはショートカットがとても似合うダコタ・ファニング。テッサの恋人アダムにはジェレミー・アーヴァイン。会社を辞めてテッサの治療法を探し続ける父にテッサの病気と向き合わない母など個性的なキャラクター達。 この作品、映像の中の光がとても自然で、ドライブの時の窓から差し込む光、森の中での光、光の撮り方が綺麗で森や海をはじめとしたイギリスの風景も魅力的でした。できればプロローグで疾走するテッサはアニメーションではなくて実写を観たかった。身体に不安はないが「諦めた事が多い」アダムとアダムと出会って生きる事の素晴らしさを味わうテッサを見ていると「生きていくという事はやりたい事を諦めていく事だ」そして「今を感じる、明日のために思いをはせることが生きる事だ」という二つの考え方が自分の中でない交ぜになる感じがしました。親友ゾーイがテッサの影響で人生を変える選択をするのも力強かった。また、テッサの希望だからと渋っていた大学への復学を決めたアダムを誤解して、誰を責める訳でもなく苛立つテッサの姿とそんなテッサの部屋で壁に書かれたリストを見て「もっと早く教えてくれたら手伝えたのに」と呟く父の気持ちに嗚咽が出そうになりました。 それにしてもテッサの恋人のアダムの優しさったら。最初は病気の女の子をどう受け止めたらいいか戸惑うけど、深い愛で包んだラストの場面を見たら、こんな男の子に思いを寄せられたら、テッサがアダムに恋をするのは鉄板ですよ! 鑑賞後、生きるという素晴らしい奇跡を改めて感じる事ができる作品でした。今の10代はもちろんだけど、大人になってしまった少女たちにも観て欲しい作品です。 |