レビュー一覧
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佐藤さん(女性/会社員) 「50/50(フィフティ/フィフティ)」 2月2日(金) TOHOシネマズ・シャンテにて |
「50/50(フィフティ/フィフティ)」は難病をコミカルに描いた映画だ。最近よく見るスタイルだが、愛情だけに重きを置かず、友情や家族愛にも触れている。 27歳の主人公アダム(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は、体調不良から病院に行き、癌の宣告を受ける。5年後の生存率は50%。同僚で親友のカイルは『生存率は悪くない』と軽く受け止め、彼女のレイチェル(ブライス・ダラス・ハワード)は、支援を快く承諾。周囲同様、彼自身の中でも『癌=死』は現実味のない方程式だった。ただ、そんな勘違いの日々は長く続く筈もなく、闘病生活の辛さと人間関係のもろさを味わい、じわりとやってくる『死』をやっと実感して自暴自棄になる。 そんな彼に最後まで粘り強く寄り添う3人の俳優の芝居が光る。親友のカイル役には「グリーン・ホーネット」(11)のセス・ローゲン。お馬鹿キャラを際立たせて、後半ホロリとくるシーンがある。新米セラピスト・キャサリン役には「マイレージ、マイライフ」(10)のアナ・ケンドリック。たどたどしくも患者に真摯に向き合う姿を表情豊かに演じている。アダムの母親・ダイアン役にはアンジェリカ・ヒューストン。母親特有のウザイぐらいのお節介を時にコミカルに時に切なく表現している。そんな彼(彼女)らに囲まれ、アダムに小さな光が残るラストになっている。全体的に重くなく、ホントに軽い仕上りだが、ちょっとだけ『リアル』というスパイスがきいていて、浮世離れしてない味付けが良かったと思う。 |
大内さん(女性/49歳/イラストレーター) 「ラビット・ホール」 11月28日 TOHOシネマズシャンテにて |
幼い子供を失くした夫婦の物語。その空虚感は映画の冒頭、ニコール・キッドマン演じる妻ベッカが庭に花を黙々と植えているその映像からひしひしと伝わってくる。 NYの美しい郊外に暮らすベッカとハーウィー(アーロン・エッカート)は、愛犬を追い、家から飛び出した息子ダニーを交通事故で失い、その日から深い悲しみから立ち直れずにいる。愛する者を失くしたその悲しみの深さは同じはずなのにそれを癒す方法はそれぞれ違う…そんなところから相手に不信感を抱きはじめ、自分が向かおうとする方向とはまったく違う道へ入っていってしまう。そんなときベッカは、スクールバスから降りてくる加害者の少年ジェイソンを目にする。事故以来触れていなかったその少年との関わりでさらに深い悲しみの中に陥っていくかと思いきや…。 タイトルにもなっている「ラビット・ホール(うさぎの穴)」は『パラレル・ワールド(並行宇宙)』をテーマにジェイソンが描くコミック。それはベッカが歩き出そうとする道しるべになってゆく。そしてまた、状況は違えども同じように子供を失ったベッカの母親の言葉が渇いたのどを潤すように心の隙間に染みわたる。そんな心の変化を演じるニコール・キッドマンが凛々しくよかった。監督は「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(01)のジョン・キャメロン・ミッチェル。こんな悲しくも重いテーマをやさしく繊細にまた少々ユーモアを取り混ぜながら描いている。それから母親役のダイアン・ウィーストの笑顔にはいつものことながら心が温まります。 この映画を観て人はなんてもろく弱いものだろうと思いました。だけどその反面、少し視線を変えることで救われる方向を自ら見つけそれによって前よりももっと強いそして柔軟な人間になれるんだ…ということを知ることができました。 |
川上 望さん(男性/59歳) 「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」 ユナイテッドシネマ・ウニクス南古谷にて |
ワイド画面の巧みな映画でした。物語の構成に感心し、泣けました。また富山の田園の美しい景色に見とれました。私のふるさとは、その隣の福井県。それも一番端の若狭湾に面した田舎町、小浜です。画面を見ながら、望郷の念に駆られました。 主人公は、他家に嫁いだ娘の居る電車の運転士の老夫婦です。三浦友和扮する滝島徹は、定年退職を1ヵ月後に控えたベテラン35年の運転士。そしてその妻佐和子は、夫の定年間近になって、結婚前にやっていた看護士の仕事を再開します。夫にはその気持ちが分かりません。50過ぎてなぜ働くのか。経済的な問題は何もないのに家事を放り出して、わざわざ寝たきりの他人の看護の仕事を自分に相談もなくいきなり始めた妻の心理がどうしても分からないのです。 寡黙で一途な男です。会話が毎日は弾むこともなく、妻は淡々と夫の面倒を見るものと思い込んで、夫婦生活を重ねてきたのでしょう。家の中に閉じ込められ、狭い世界で終わってしまいたくないと念じる佐和子の心に思いが到らないのです。誰かの役に立って、晩年を有意義にしたいと願う気持ちなど分かる訳がありません。徹から一喝されて、夫が夜勤に呼び出された留守の間に佐和子は家を出てしまいます。 何とももどかしい夫婦です。私は現在一人身ですが、夫婦と言うのはそんなものでしょうか。何でもっと会話を重ねないのか。でも、お互い空気のような存在になってしまえば、一方的な会話しか出来なくなるのかも知れません。そして、その後の家の中を映すシーンの侘しいこと。一度佐和子は帰って来ますが、離婚届を置いてまた出て行きます。彼女が住むアパートの一室も映りますが、そこも家財道具の少ない侘しい場所でした。 そうして2人が別々の人生を生き始めた時点から、夫婦の再生の物語がスタートします。どんな経路を辿るかは、映画をご覧になって確認して下さい。田園景色の心に染み込む物語を、ぜひ見ていただきたいのです。 クライマックスシーンは、雷による電車の事故です。突然の出来事ほど、人の心を試すものはありません。他人を救うことは、自分達の心に愛を灯すことだと言うメッセージが、そのシーンから、しっかり伝わって、心底いい気分になれる名作でした。シネコンの席数の少ない劇場で、ご覧になることをお勧めします。 |