レビュー一覧
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玉川上水の亀さん(男性/51歳/会社員) 「ステキな金縛り」 10月25日 試写会にて |
50歳を迎えた三谷幸喜さんが『大感謝祭』と称して、今年、舞台、ドラマ、映画、小説と立て続けに作品を発表している。この映画は、これら作品群の一つである。映画は、ある殺人事件を巡る法廷劇をオールスターキャストで描いていく。勿論、三谷さんが描く法廷劇だから、普通の裁判ではない。 裁判で取上げられる殺人事件は、映画の冒頭で起こる。だから我々観客が初めから犯人が分かった状態で、ドラマが展開していくことになる。殺人事件自体は三角関係のもつれによるもので、事件解決の為、優秀な刑事や探偵は、この作品では登場しない。犯人側の工作で妻殺しの濡れ衣を着せられた矢部五郎を救う為、担当弁護士の宝生エミと唯一アリバイを証明出来る落武者幽霊・更科六兵衛が悪戦苦闘しながら、真犯人を突き止めていく。 この映画はとても演劇的要素が濃く、このまま舞台化することも可能なように思える。それは、普通の人が見ることが出来ない幽霊を証人として法廷に立たせ、本筋である殺人事件の審理よりも幽霊の証言が有効かどうかと云うことに主眼が置かれていて、ある意味、不条理劇的側面も持っているからである。そして通常の裁判では有り得ない『禁じ手』の手段で呆気なく、この殺人事件は解決する。笑いがてんこ盛りの法廷劇で大いに楽しませ、ヒロインの弁護士として、人としての成長を彼女の亡き父親とのエピソードを絡まして描き、最後に観客をホロリとさせる展開が上手い! 50歳と云う節目を迎え、脚本家、演出家として、そして映画監督として、益々三谷幸喜さんがマルチに活躍されることをファンの一人として期待せずにはいられません! |
佐藤さん(女性/会社員) 「一命」 10月29日 丸の内ピカデリーにて |
「一命」は三池崇史・監督、海老蔵・瑛太主演の時代劇である。この映画はとにかく静かだ。藁をはむ音、石を踏む音、雨の打つ音。和やかな場面でさえ、息が詰まる緊張感がある。全体を錆び暗さで統一した、美術・林田裕至の仕事のなせる技なのか……。 三池監督の時代劇、「十三人の刺客」(2010)と比較するのも面白い。物話は『切腹』を題材にしており、観るのがかなり辛い場面もある。冒頭、津雲半四郎(海老蔵)がある大名屋敷を訪れ、『当家の玄関先を借りて切腹をしたい』と願い出る。その応対をした井伊家江戸家老・斎藤勘解由(役所広司)から語られる話。それを受け、半四郎も自らの話をしていく。この構成が上手く、徐々に話は繋がっていく。 配役もまた絶妙で、柔らかい物腰の千々岩求女に瑛太、その求女にかいがいしく寄り添う妻・美穂に満島ひかり。沢潟彦九郎役・青木崇高の存在感も良かったと思う。海老蔵は満島の父親の設定だが、初めは少し(年齢的に)無理があるように思えた。しかし、あの風貌がそれを忘れさせる貫禄を生んでいる。なにより、後半の眼光鋭い大立ち回りは彼にしか出来ない場面だったと思う。あのギラついた芝居は、こんな場面の為にある!…とさえ思った(褒め言葉です)。 『いのちを懸けて、問うー』それぞれの立場で命をかける大切な物は違う。自分がどの目線でこの作品を観ていたかは、分からない。観る側の『心』を露骨に出してしまう、そんな作品だと思った |
後藤さん(女性/37歳/主婦) 「リアル・スティール」 10月29日 USAにて ※日本公開 12/9 |
リングの上で激しい闘いを繰り広げる近未来。もはや人間がリングに立つことはなく、ロボットの所有者であり、白熱する観戦者である……うーん、そんな未来は想像できない~と観る前は思ったけれど、意外とのっけから違和感なく入り込めました。トランスフォーマーより見た目も動きも人間ぽくて、ファイティングシーンはなかなかの迫力です。 主人公のチャーリーは元ボクサーで、ロボットボクシングに手を出しているものの勝てないままに借金だけが増え、離婚した妻が亡くなったことで現れた息子をあっさりと息子の叔母夫婦に売ろうとしてしまう。男の夢と言われればそうかもしれないけれど、ここまで魅力を感じない主人公もそうそういない。ハリウッド映画ですから、駄目人間なだけで終わる訳ではないけれど。そしてロボットと違って、熱くて感情的な「人間」を感じさせる存在ではあるけれども。でもやっぱりあくまでもこの映画の見どころはSF部分であって、チャーリーが軸となる人間模様は単なるおまけだと思いました。 ファイティングシーン以外では、チャーリーの息子マックスとロボットとの息の合った動きも見どころ。小中学生の男の子が見たら喜んで真似すること間違いなしです。ファイティングシーンは子どもに見せたくない? この映画は個人的には許容範囲だと思います。ロボットだから血が出ないこと、喧嘩や戦争ではなくボクシングでのファイトであること、そして観た後に悲しい気持ちにはならないこと。そのかわりに大きな感動もないけれど、娯楽映画として気楽に楽しめる作品です。 |