レビュー一覧
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早川和希さん(女性/20代) 「泣く男」 10月10日 試写会にて |
作品のレポートがついに最後ということで何を書こうか迷ったのですが、最近、韓国映画が気になっているので「泣く男」という韓国の作品を紹介しようと思います。この映画は2010年、韓国興行収入No.1の作品「アジョシ」(11)のイ・ジョンボム監督の最新作になります。 幼いころに母親に捨てられ、中国系の組織に殺し屋として育てられたチャン・ドンゴン演じるゴンがアメリカでの任務遂行中に誤って少女を殺してしまう。やるせない思いにかられるゴンに対して組織はその少女の母親モギョン(キム・ミニ)を殺せと命令を下す。それを最後の仕事と決めモギョンのいる祖国韓国に戻り実行の準備を進めていくが、モギョンを目の前にしたゴンの脳裏に少女の最期が甦り拳銃の引き金を引くことができず組織を裏切ることになってしまう。 冒頭、セリフがなく冷徹に仕事をこなすゴンとバックに流れる音楽が印象的で映画の世界に引き込まれていきます。この映画の魅力の一つはアクションだと思います。中盤に登場する昼間の団地のような所で繰り広げられるアクションは沢山の男達(組織が送り込んだ刺客)に対して一人で戦うゴンがかっこよくて、動きも早いため瞬きするのを忘れるほどでした。最後までアクションが随所にあるのですがそのどれもが圧巻です。 そして、モギョンを演じたキム・ミニの演技にも注目してほしいです。子供を失った悲しみ、人が目の前で殺されていく恐怖と戦いながら自分のやるべきことはやるモギョンの姿、表情が絶妙で観ている私にも気持ちが伝わってきました。 私はグロテスクなものが少し苦手なので1回で十分だと思っていましたが、ラストシーンの一つ手前のシーンは私のお気に入りでこのシーンを観るためにもう一度観たいと思ってしまいました。さらに、予想をしていなかった展開だったので驚き、終わった後もすぐに席を立つことができませんでした。この映画は殺し合いがあるので死ぬ人がたくさん出るなどグロテスクなシーンもありますが、母に対する感情や友情も盛り込まれている作品なのでぜひ観てほしいです。 |
小室明子さん(女性/30代) 「まほろ駅前狂騒曲」 11月5日 シネ・リーブル池袋にて |
この作品は「まほろ駅前多田便利軒」(11)の続編ですが、前作とドラマ版『まほろ駅前番外地』(13 テレビ東京)が大変興味深い話だったので、今回はどんな話かと楽しみにしていました。 仕事は極力引き受けるのが信条の多田(瑛太)といつも何考えているかよくわからない居候の行天(松田龍平)が、いつも訳の分からない依頼を引き受け、何とか解決に持ち込むその過程が見どころです。今回の映画でもそのテイストは変わらず、一ヶ月半、行天の遺伝子上の娘・はるちゃんの面倒を見るハメとなり、むさい男二人と少女のヘンテコ生活が始まります。しかし、このヘンテコ生活が家族のいない多田にとって次第に心の拠り所となり、過去の悲しみを乗り越える力になっていきます。またこのヘンテコ生活が、常なる厭世感を感じている行天にとっても大きな転機となっていきます。 私がどうしてこの作品に惹かれるのかその理由ですが、二人の関係における「ゆるさ」にあると思います。多田と行天の共通性は、人生とは思い通りにいかないという事を頭で理解しており、故に厭世的、退廃的にならざるを得ないのですが、今回の映画で初めて子供という存在が出来た時、二人は自分より弱い存在がいることを初めて意識し、大人の男として如何に行動しなければならないか、考えるようになります。いわばこれが人間的成長であり、彼らと一緒になってその成長の過程を楽しむ事ができる、それが「まほろ駅前狂騒曲」なのです。「スリーメン&ベビー」(88)の日本版と言えるかもしれません(それは言い過ぎかな。笑)。 また行天という男はふわふわと根無し草のように生きている男で、多田の所で猫のように居候をしているのですが、多田だけはブツクサ文句を言いながらも行天という存在を必要とし、認めてくれる事を理解しているのです。血は繋がらなくとも家族のような関係が許されている、その「ゆるさ」ゆえ、観終わった後はほっこりと暖かい気持ちに包まれます。 続編では多田の悲しき過去、そして行天は遺伝子上の娘と初のご対面、行天が精子提供した女性とそのパートナーも登場し、これまでの多田便利軒が更に深みを増して、魅力的に描かれています。父親としての自覚が芽生える二人の生き様にご注目あれ! |
Shioriさん(女性/20代) 「ザ・テノール 真実の物語」 10月15日 109シネマズ川崎にて |
私は歌を題材にした映画が大好きで今年も何本か観賞していますが、ヨーロッパの作品が多く、特にオペラを題材にした作品は歴史の違いもあってかアジアの作品に出会うのは非常に珍しいです。本作は、実話を元に作られた作品で日韓共同製作の韓国映画です。 史上最高のテノールと称されヨーロッパで活躍していた韓国人オペラ歌手ベー・チェチョルさんとその歌声に惚れ込んだ日本人音楽プロデューサー輪嶋東太郎さん(本作では沢田幸司)の友情とガンにより失った声を取り戻すまでの軌跡が描かれています。チェチョルさん自身、オペラの才能は神から贈られたギフトだと言うほど才能に溢れその道に命をかけている人にとって、自身の宝を失ってしまうと言う絶望感は計り知れません。また皮肉にも高いプロ意識こそが復帰への一番の足かせになってしまうとは…。 オペラのシーンの吹き替えはチェチョルさんご本人が担当していることもあり、凄い迫力で序盤の狂気にも似たような声の力強さに比べ、クライマックスのアメイジング・グレイスは力強さの中に優しさと深みが増し、音楽はその人の人生や気持ちが滲み出るものなのだなと改めて実感しました。もちろんチェチョル役のユ・ジテさんの演技も歌に負けない迫力と存在感があり、特に声を失ってしまったときの絶望感とオペラの『オテロ』がリンクしたシーンは真に迫っているし、韓国映画特有の毒々しい映像美とシンクロし絶望感を画面全体に押し出していてとても印象的でした。その反面、伊勢谷友介さん演じる沢田さんは希望の光と言った感じでとても暖かく描かれていて、闇と光のコントラストが素晴らしかったです。 お互いがお互いの情熱に惚れ、信頼しあい徐々に深い友情で結ばれる姿には、この映画の製作と今の日韓の情勢とも重ねて観てしまいます。しかし、理解し信頼し合えば深い友情と絆が築けることを本作は証明しています。 |