レビュー一覧
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美菜さん(女性/40代) 「百日紅~Miss HOKUSAI~」 5月21日 テアトル新宿にて |
この映画の舞台は葛飾北斎とその娘で後に浮世絵師葛飾応為となるお栄の過ごした時代です。派手なお話ではなく、淡々と丁寧に原作のエピソードをつなげていると思いました。彼らの周りに起こるできごとや当時の町の様子の描き方がとても好きでした。 橋の上に佇むシーンが何度かありました。当時の交通手段のメインは歩きだったこともあって、橋の上には様々な人たちがいて、見ているだけでその人の職業がわかったり、そしてそれが現在にはすでにないものであるところも観ていて楽しい部分でした。もともと街の中で人を見るのが好きですが、この橋の上でしばらく通りすがる人や下を通る船、風の様子や様々な音を感じてみたいと思いました。 また声を誰が担当するのか事前情報を入れない状態で観にいったこともあるかもしれませんが、後から誰が担当していたか知ったけれどもいつもその人をイメージするのとは違って、もう一度観た時にも役者さんとしての彼らの姿よりもその役の声としか聞こえなくて、アニメーションに声優さんとして出ることは見た目のイメージとはまた違った役柄を演じられるんだなあと、それは役者さんにとっても楽しいだろうなって、そんなことを改めて感じました。特に麻生久美子さん(花魁の小夜衣役)が素敵でした。 原作を後から読みましたが、原作でのカットそのままの絵や台詞が使用されていて、そしてそれをアニメーションとしてつなげていっているのに雰囲気は壊れていない、それどころか一つ一つのエピソードの流れが自然ですんなりと入ってくると感じました。 どうしても観たくなって二度観に行ったのですが、公開終了までにあと一度は行きたいと思っています。物語の大きな流れ以外のとても細かなところまで丁寧に描かれているので、そんな細かい部分まで何度も確認するように観たい映画だと思いました。 |
森泉涼一さん(男性/28歳) 「グッド・ストライプス」 6月8日 新宿武蔵野館にて |
結婚を控えたカップルのリアルな価値観を描くといった大きなテーマがあるものの、この二人のあまりにも不一致な性格を見ていると共感できる部分は少ないと最初は思うかもしれない。だが、そんな相反する二人だからこそ成り立ったラブストーリーである。食べ物で例えるのであれば「スルメ」。最初は味がないものの噛めばおいしくなってくるといったように天真爛漫な緑(菊池亜希子)と寡黙で優柔不断な真生(中島歩)が勢いで結婚を決断した時点では味気がない男女に見えるが、これが同居を始めると段々と魅力ある男女へと変化していく。 この映画では一般的なカップルの日常が描かれている為、私生活での夜の会話ひとつとっても非常に親近感が湧いてくる。そしてたわいもない痴話喧嘩からサラッと生み出される笑いも魅力の一つ。当事者目線で言えばこのような小さな揉め事が重なればストレスの原因となりイライラがおさまらないかもしれないが、観客者としての第三者目線で言うとこれが皮肉なことに他人事のようで面白い。これこそ映画だから生み出された笑いといっても過言ではない。相手の両親へのご挨拶という大事な場面でもピリピリした空気間の中でちゃんと笑いも取り入れている。天真爛漫な緑を育てた一家は変わり者が多いが、そんな中に寡黙な男を放り込むとどうなるだろうか。答えは抱腹絶倒である。 しかしながら、前述のようにこの映画のテーマはこんな二人のリアルな価値観。相手の両親に挨拶へ行ったときに初めてわかった相手のルーツからお互いのことを少しづつ理解し合い価値観を共有する。笑いだけではなく、こういった結婚を控えたカップルのリアルな心情が描かれている面で現に同じ境遇に立たされている人には共感を得られる部分が多いかもしれない。上映時間が経てば経つほど喜びと哀しみに溢れ、上映終了時には二人の恋愛への価値観に理解を示す人も多いはず。まさに「スルメ」のような映画である。 |
坂本 彩さん(女性/20代) 「セッション」 6月8日 渋谷シネパレスにて |
エンドロールが始まってからずっと鳥肌でした。この映画は凄いです。映画鑑賞というよりも映画体験という言葉がしっくりくるような107分間でした。全国16館で公開された製作費4億円ほどのインディペンデント映画ですが、観た人の反響が大きく、他の映画館でも上映が開始された話題の映画となっています「狂気」。この映画を一文字で表すと狂気です。名門音楽大学院に在籍している二ーマン(マイルズ・テラー)は、鬼教師フレッチャー(J・Kシモンズ)のバンドにスカウトされ、初めての合奏前には「音楽を楽しめよ」なんて温かい笑顔で語りかけます。しかし、わずかなテンポのずれも許さない完ぺきなセッションを目指すフレッチャーは、ニーマンのドラムの腕だけでなく、精神までも追いやっていくことになります。 もしかしたら音楽が大好きで、さらにジャズをやっている人にとっては気持ちが悪い映画なのかもしれません。吹奏楽をやっていた私も、序盤は「こんなの音楽じゃない」なんて思っていました。しかし「狂気」「情熱」を描いた映画としては最高で、その表現ツールとしてドラムが使われているのだろうなあ、ドラムであればその心の乱れや興奮を音で表せるしなあ、なんて考えていました。家に帰って調べてみると、なんと監督のドラム体験に基づいている映画らしいことが分かりました。そしてなにより驚いたのが、(撮影時)28歳という若さであの映画を作っていたということ。次の作品が本当に楽しみです。 この映画は映画館でみるべき映画です。人がただドラムを叩いているだけの映像を息を止めながら没頭して見ることなんて他にありません。最高の映画体験が味わえると思います。 |