レビュー一覧
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濱口ゆり子さん(女性/20代) 「新聞記者」 6月29日(土) ユーロスペースにて |
ある大学新設計画について、極秘情報が匿名FAXで自社に送られてきたことをきっかけに真相を追い始める新聞記者・吉岡と、内閣情報調査室(内調)で情報管理任務にあたる官僚・杉原。やがて二人はこの計画の裏にある真実を知り、重い決断を迫られることになる―。 あくまでこの映画はフィクションです。大学新設計画は架空の設定であり、内調の描写も想像に基づいていることは監督自身が認めています。しかし、映画に登場する数々の出来事が実際の事件を想起させることを意図していることは明らかであり、今の政治、日本社会の異常さを正面切って問うこの作品が製作の過程で反発も受けたであろうことは想像に難くありません。この作品に取り組もうと思い、そしてそれを実現させた監督、プロデューサー、俳優、スタッフ、全ての関係者の方々に敬意を表したいと思います。 吉岡も杉原も、それぞれの正義が異なるだけで、国民の為に仕事をするという思いは同じです。しかし、杉原はやがて自分のしていることに抗い切れぬ葛藤を抱くようになります。自分が尽くすと言っている『国民』とは誰のことなのか。組織の正義と自分自身の良心との間で揺れながら杉原が取った行動は、それこそ命懸けの決断だったでしょう。吉岡も、現実は権力者対ジャーナリストという単純な構造ではなく、新聞も政治に忖度をすることがあり、まず乗り越えなければならない壁は自分が属する組織の中にあることに苦しみます。同僚の応援も受けながら外圧をはねのけ、真実を国民に届けようとジャーナリストとしての命を賭して必死に上司を説得し奔走する彼女の姿は、杉原の行動と同様に重く胸に突き刺さるものがありました。 今、観ることに意味がある映画だと思います。今まさに起こっていることに対する現在進行形の問題提起を当事者である私たち一人ひとりがどう受け止めるのか。同時に、日本がせめてこれからもこのような映画が作られることが可能な国であり続けることを祈ります。 |
谷村ゆりさん(女性/40代) 「今日も嫌がらせ弁当」 7月4日(木) TOHOシネマズ日比谷にて |
昨年公開された「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(18)「人魚の眠る家」(18)に続いて、またしても篠原涼子さんが演じる母親の姿が印象に残る作品でした。反抗期を迎えた娘への『嫌がらせ』として高校3年間毎日キャラ弁を作り続けたお母さんの人気ブログ・書籍を原案とした映画です。八丈島ののんびりした空気と自然あふれる風景の中で、娘にウザがられるのもちょっと納得できるくらいに(笑)前向きで明るく、そして働き者のお母さんを、篠原さんがのびのびと演じていました。反抗期真っ只中で『嫌がらせ弁当』を介して母親とバトルを繰り広げる次女役の芳根京子さんは、本当は母のことを尊敬しているのに顔を合わせると素直になれず、勝手に自分は独りぼっちだと感じている10代の女の子の繊細さを上手に表現されていました。 作品を見ていて一番感じたのは、お弁当には作った人の愛が詰まっているということ。文字通り寝る間も惜しんで『嫌がらせ』という名のもとに作られるバラエティ豊かなキャラ弁からは、反抗期に戸惑いつつも娘のことが気になって話しかけずにはいられない、という気持ちが伝わってきます。娘も、そんな母をウザいと思いつつも、負けじと毎回お弁当を完食するあたりがかわいいです。海苔を器用に切って表現されるキャラ弁には一世を風靡した(?)お笑い芸人さんが多用されていて笑ってしまうものも多いのですが、根底にはひしひしと愛を感じ、常にあたたかい気持ちに包まれていました。 そして迎えた高校の卒業式。母が魂を込めて作った最後のお弁当があまりにも素晴らしく、思わず涙してしまいました。(後からあのお弁当は実際に作られたものだったと知って、再度感動しました!)途中ハラハラするようなシーンや、家族の在り方について考えさせられる局面もあります。家族間であっても思っていることを言葉や形にすることの大切さを教えてくれる、幅広い年代の方が共感できる作品だと思います。 |