レビュー一覧
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南真紗子さん(女性/40代) 「ダンガル きっと、つよくなる」4月3日 TOHOシネマズ日比谷にて |
演劇は、同じ作品でも演出やキャストが異なればガラリと変わるのはもちろんのこと、同じ公演でも演者の調子や客席位置で受ける印象が変わるという、元来そちらの魅力に取り付かれていたのですが、数年前に久しぶりに古い映画を観直したときに、作品自体は何もかわっていないにもかかわらず、沸き起こる感情の変化で自分の成長に気づかされ、それ以来、映画の虜になってしまいました。ここ数年、映画をあまりにも頻繁に観過ぎていて、自重すべきか悩んでいた中で、このたび幸運にも「ぴあ特別会員」に選んでいただきました。映画ファンにとっては最高の栄誉です。映画を観ても良いとのお赦しに心から感謝しながら、引き続き浴びるように映画を観続けたいと思います。 今回ご紹介するのは、「ダンガル きっと、つよくなる」というインド映画です。日本でも大ヒットした「きっと、うまくいく」や「PK」のアーミル・カーンが製作・主演を努めた大ヒット作、しかも、女子レスリングのオリンピック代表選手姉妹とその父の実話がベースと聞けば、否が応でも期待値が高まり、公開が待てずに先行上映に行ってまいりました。実話ベースの作品は結末が読めて予定調和になってしまったり、スポーツが主題だとルールがわからないと楽しめないのではとの懸念もよぎりましたが、予想外の展開で引き込んでいく脚本の妙が際立っていただけに、杞憂に終わりました。 練習の厳しさと勝負に負けたときの悔しさ、周りの人にまで幸せをもたらす勝利、親子の反発や更に深い愛など、普遍的なだけに繰り返し取り上げられてきたテーマを、俳優陣のまさに身体を張った熱演を軸に、緻密に練られた脚本と演出、カメラワークが、インド料理のスパイスのように深いところでとてもうまく纏め上げ、手に汗握る緊張感と感動が入り乱れるあっという間のひと時でした。国境を越え、世代を越えて、老若男女誰もが楽しめる、歴史に残る1本です。 |
高瀬倫子さん(女性/40代) 「ニワトリ★スター」4月1日 ヒューマントラストシネマ渋谷にて |
『ぴあ映画生活』に応募したことがきっかけで、本年度のぴあ特別会員に選んで頂くことが出来ました。20年来の映画好きではありますが、賞を意識した観方をしたことは無かったので、初の重大任務への緊張と重圧にやや疲弊しております。とは言え、またとない機会を与えて頂きましたので、1年間楽しみながら努めて参ります。 今回私がオススメする映画は「ニワトリ★スター」です。この映画が始まる少し前まで放送されていた話題のドラマ『アンナチュラル』の中堂さんが大好きで、巷で言われていた『中堂ロス』に陥っていたため、井浦新さん主演のこの映画を本当に心待ちにしていました。「ニワトリ★スター」は、たなか雄一狼さんが小説を書き『かなた狼』に改名して自ら映画化された初監督作品です。 ———————「オレは雨屋草太。こいつがニワトリスター。全身タトゥーの赤髪。それなりに楽しい毎日やった」—————— 冒頭から井浦新演じる草太の大阪弁に魅せられます。大阪から上京し、大都会で暮らす末端の売人『草太』と、沖縄から東京に来た天真爛漫で型破りな青年『楽人』そんな2人が東京の片隅のアパートで共同生活をしながら繰り広げる奇妙な日常。パンクでバイオレンスな物語の前半は、アニメーションを交えながらも至って淡々と描かれて行きます。大麻の密売で生計を立て、自堕落でもそれなりに楽しく暮らす2人。そんな日々もあることがきっかけで、残酷な音を立て崩れて行きます。 後半は、バイオレンスなラブファンタジー要素がこれでもか!と盛り込まれ、駆け下りるように物語が進み、振り落とされないようついて行くのに必死です。個性的で人間くさい登場人物、全員傷だらけのギザギザファンタジーを、ぜひ映画館でご鑑賞ください。 |
林さん(女性/20代) 「トレイン・ミッション」4月9日 TOHOシネマズ新宿にて |
小さい頃から家族で映画館に足を運ぶことが多く、映画は自分にとってとても親しみのあるコンテンツでした。しかし『日本アカデミー賞』と聞くと急に果てしなく遠く、自分とは全く関係のない世界のように感じていました。ぴあ特別会員に選ばれてからも、自分が日本アカデミー賞の会員として映画を鑑賞するという感覚が掴めませんでした。会員となってから映画館に初めて足を運んだ時はとても緊張していたのをよく覚えています。最近になりようやく実感が沸いてきた次第です。未だにどこか夢見心地な気持ちですが、ぴあ特別会員としてこれから一年間存分に映画の世界に浸っていきたいと思います。 今回鑑賞した「トレイン・ミッション」という映画は、主演をリーアム・ニーソンが務めるアクション作品です。冒頭から迫力のある音楽と共に主人公マイケルの人生が描かれていきますが、とてもお洒落な映像の繋ぎ方に魅せられ、すぐに映画の世界へと引き込まれました。毎日同じ事を繰り返すだけの日々も、クビを宣告されてからはもう戻らない平穏な日々へと形を変えてしまう。お金もなく愛する家族だけが心を支えている、そんなマイケルに突如として言い渡されたミッション。自分と同じ列車に乗り込んでいるある人物を終着駅までに見付け出せ。たったそれだけの内容。しかしそこには多くの謎が残されています。 誰が何のために依頼をしてきたのか。何故自分が選ばれたのか。託されたミッションは単純なものでしたが、マイケルには次々と想像を越えた試練が襲い掛かり、列車内はますます緊迫した状況へと陥っていきます。 観ている側も、気が付けばマイケルと同じ立場になったように共に思考しストーリーへとのめり込んでいました。そしてそこに加わるアクションシーンは、走り続ける列車内を存分に生かした大迫力なもので、見終わった後もすぐにもう一度あのシーンを見直してみたいと感じました。予想を裏切られるハラハラとした展開も魅力的ですが、何よりマイケルの壮絶なアクションシーンは映画館の大きなスクリーンと迫力ある音響で是非皆さんに体感してほしいと思います。 |
mayaさん(女性/20代) 「娼年」4月7日 TOHOシネマズ新宿にて |
石田衣良さんの原作の小説であり、昨年松坂桃李さん主演で舞台化。 話題になってはいたけれども、チケット完売で観ることが出来なかったので映画化が決まった時、絶対観たいと思っていました。「娼年」という衝撃的なタイトルだし、性的な描写も多いけれども、途中から松坂桃李さん演じるリョウという主人公に惹かれていきます。娼夫という仕事を中心に様々な人々のストーリーがあって、女性の悲しみ、切なさなど共感できる部分がいっぱいあります。 リョウは人のどんな想いも全て受け入れてくれる。だからリョウをみんな求める。女性だけではなく男性も。口数が少ないし、愛想はないように見えるけれども、どこかやさしい。 娼夫とお客さんという関係の中でも、リョウは相手のことを想っている。お客さんもまたお金を払っている関係だからこそ、誰にも話せない想いをリョウだけに話せる。人生にも女性にも興味がなかったリョウが、真飛聖さん演じる静香との出逢いをきっかけに娼夫という道を選び、娼夫になってから女性のこと、他人のことを理解して喜ばせることができ、だんだん人として変わっていきます。 そんな中、リョウに恋をする大学の友人と昔からの友人に娼婦の仕事をしていることがばれ、拒絶されてしまいます。知らないというのはこわい。自分の考える常識だけで、人のこと、世の中のことを判断してしまうのはあまりにももったいない。同じ経験をしたとしても感じ方はそれぞれで、自分の感覚が必ずしも相手と同じとはかぎらない。友達だったり、家族だったり、近い存在だからこそ何があっても全て受け入れていくべきなのではないだろうか。周りと生き方や、カタチが違っててもいい。そんなことを感じました。いろんなことを見直させてくれて、価値観を更新させてくれる作品です。 ぴあ特別会員の存在を知り、絶対やってみたいと思っていたので、選ばれてしばらくは信じられませんでしたが、とても嬉しいです。大好きな映画に、日本アカデミー賞の会員として関われることができて光栄です。せっかくなので、今年は普段見ないような作品にも挑戦しつつ、例年よりたくさんの映画を観て1年間精一杯楽しみたいと思います。 |
真耶さん(女性/20代) 「シェイプ・オブ・ウォーター」TOHOシネマズ シャンテにて |
半魚人の生物と、声が出せない女性の恋の話です。 この作品の中では監督が"The others"と表現する人とは違うもの、いわゆるマイノリティとされる人がたくさん出てきます。主人公の声が出せない未婚の中年女性、ゲイで画家の定職を失った隣人、同僚の黒人女性など。それを踏まえ、「私達には何の違いもない」という言葉が強く印象に残りました。これは半魚人の彼と自分に違いはないと訴える主人公の言葉です。喋れない私と、喋れない彼。彼には感情も知性もあり、彼女が教えた手話でのコミュニケーションもとれます。確かにどこが違うのか ?とハッとしました。 目に見えるか見えないか、わかりにくいかわかりやすいかの違いはあれど、人それぞれにマイノリティな部分はあると思います。その中でわかりやすくマイノリティな"The others"とされる彼らだからこそ、半魚人の彼の本能や個性を自然と当たり前のように受け入れていく優しさと心の広さに感動しました。おとぎ話のような美しいストーリーや人間関係だけでなく、作品の美術的な部分でも(主人公の部屋の壁紙は北斎の鯉の絵に影響を受けたそう)注目したいところが多く、とてもお勧めしたい作品です。 今年度のぴあ特別会員に選んで頂き大変光栄に思います。 選ばれたと知ったときは、嬉しさと驚きのあまり仕事が手につかず集中できなかったことを覚えています。普通よりも少し映画が好きなだけの私に務まるのか?と少し不安にも思いますが、 このようなまたとない素晴らしい機会を頂いたので、この一年精一杯楽しみつつ、たくさん映画を観て、この映画観てみたいと興味を持って貰えるようなレポートを書けるように頑張りたいと思います! |