レビュー一覧
|
村松健太郎さん(33歳) 「踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望」 9月7日(土)TOHOシネマズ渋谷にて |
その存在が賛否両論・毀誉褒貶、映画として有りか無しか、そしてその後のメジャー体制の邦画の作られ方などなど、ありとあらゆる議論の出発点ともなった一大(一代)企画の最後の大花火。 前作「踊る大捜査線 THE MOVIE 3奴らを解放せよ」(10)は"らしさ"を意識しすぎたことと最初の取っ掛かりとして"湾岸署の引越し"という少々大きすぎる"引き"を用意したため、結果、映画全体のバランスを欠き、落とし方もスッキリとさせてくれず、正直、満足感を得られなかった。しかし「The Final」と銘打ったシーズ完結編は、直前のドラマスペシャルで感じた復調の流れのまま、見事復活を果たしてくれた。 "3"のアンバランスさはベテラン刑事和久平八郎を演じたいかりや長介の喪失が大きいのかとも思ったが、やはり作劇次第で踊るは踊るになり得た。開巻のおなじみのコント調の寸劇に続いて、連続ドラマ版からの流れを一気に駆け抜ける近年では珍しいほどの長さのオープニングタイトルから始まった今作は、まさに原点回帰作。警察組織というものへの青島と室井の挑戦。そして正義と正しさのあり方、信念の貫き方。というドラマシリーズを思い出させるストレートでシンプルなストーリーになっていた。15年を見せるオープニングで気持ちを煽られ、回想での和久、"真下"夫人となった雪乃、新城&沖田などの警察幹部など"3"には未登場のメンバーの登場。最後のゲストキャラクターとしてSMAPから香取慎吾が登場して華を添える。さらには、誰もが気にし続けた青島とすみれの"同僚以上恋人未満"の関係の進展も描かれ正しく総決算となった。 現役警察官による拳銃射殺事件、しかも凶器は押収された拳銃。という一大不祥事。これ隠蔽しようとする上層部。そして明かされる真相ゆえに刑事職を追われるという窮地に立つ青島と室井。これが最後と覚悟を決めての"盟友の共闘"。映画は終盤の青島の姿同様、ひたすら走りきる。 最後、最後とは言いながらもしんみりとはせず、カラッとすっきりと、気持ちの良い"最後の踊り"となった。 エンドロールにはシリーズ通じてのテーマソング「Love Somebody」がシリーズごとのリミックスバージョンを合わせたバージョンで流れ、少しの名残惜しさを感じさせつつ映画に幕を下ろした。 |
横沢佑真さん(20代/飲食業) 「アベンジャーズ (3D上映)」 9月3日 TOHOシネマズ日劇にて |
いわゆる「食わず嫌い」というものは、誰しもしたことがあるだろう。実際に食べたわけでもないのに見た目とか勝手なイメージや先入観で否定的な固定観念を抱いてしまう。そのネガティブな思い込みは食べ物だけに限らず、時に人物、作品に対しても引き起こされるため、実にやっかいな感情だ。しかし、そんな食わず嫌いをいざ食してみれば、やっぱり口に合わないケースはもちろんあるものの、意外に「うまい!」とハマるパターンもあるので、好き嫌いなんてものはわからない。 僕にとって「アベンジャーズ」は、紛れもなく後者だった。何を隠そう、僕はこの映画を毛嫌いしていた。そう、観るまでは。うん、食わず嫌いだ。まず、生粋のジャパニーズである僕は「アメコミ」なるものに対して一種のよそ者感情を抱いていたし、なおかつ生まれながらの下町っ子としては、CG全開のハリウッド映画にこちとら苦手意識を持っていたのだ。どうせ大味なだけが取り柄のヒーロー映画だろうと高をくくっていた。何というか、ハルクはピーマンの肉詰めで、アイアンマンは酢豚の中に入ったパイナップル、キャプテン・アメリカにいたっては見た目からしてアウト、青光ったしめ鯖だった(全て個人的に食わず嫌いしているものです、あしからず)。ところがだ。ところがばってん、知人に連れられて仕方なしに足を運んだ劇場で、僕の心は驚きの舌鼓を打つこととなる。 面白い!!ヒーロー達の心情のぶつかり合いは見せ場があり、敵役ロキの暴れっぷりも気持ちいい。それにヒーローの活躍だけでない。周りの人間によるドラマも感情を昂ぶらせてくれる。そして何より、あのど派手な演出、アクションシーン!迫りくる3D映像はもう理屈抜きに楽しめる。そうかエンターテイメントはやはりこれくらい痛快でなくてはならない、と再認識させられる映画だった。 観る前には「てやんでいべらぼうめ」と思っていたあの挑戦的なコピーにも、今はうなずける。これが、これからの映画だ。次は、食わず嫌いせずに単品でも楽しもうと考えている。特にしめ鯖なんか、面白い |
丸茂さん(女性/26歳/販売業) 「鍵泥棒のメソッド」9月15日 シネクイントにて |
コメディで、サスペンスでもあり、ラブストーリーかと思えば、ちょいとヒューマンだったり…。「鍵泥棒のメソッド」を振り替えると様々な要素が当てはまる。改めて書くと、ジャンルの振り幅が広すぎて一体どんな映画なんだ!?と思うが、本作では、一見バラバラのこれらのジャンルを上手~く程良~くブレンドし、ジャンルの垣根を超えた正しく〝NOボーダー!″な独特の内田監督ワールドが炸裂している。 売れない役者の桜井(堺雅人)は、ある日銭湯で羽振りの良い男・近藤(香川照之)と出会う。しかし近藤は、風呂場で足を滑らせ頭を強打し病院へ運ばれる。その隙に、桜井はロッカーの自分の鍵を近藤の鍵とすり替えてしまう。こうして、桜井は近藤に成りすますが、実は近藤は凄腕の殺し屋だった…。一方、頭を強打した事で記憶を失った近藤は、自分を桜井と思い込む。そして、病院で知り合った水嶋早苗(広末涼子)も巻き込んで、物語は思いもよらない事態へと発展していく…というあらすじ。物語の設定がすでにぶっ飛んでいて、この時点で面白い&監督の発想力に驚かされるが、さり気な~く物語全体に散らばっているバラバラの伏線が、後半へ進むにつれどんどん繋がっていき、まさかのラストへ突き進んでいく展開は圧巻で、物語の構成力の巧みさに舌を巻いた。 脚本だけでももの凄く面白いのに演じている役者さん達がこれまた曲者揃いで、面白さに更に拍車をかけている。まず香川照之さん演じる近藤の『記憶がある時』と『記憶を失い自分を桜井だと思い込んでいる時』の演技のギャップがありすぎて、驚かされた。近藤と桜井で、どんだけキャラが変わってるのさー!また堺雅人さんは、情けな~いダメ~な男を好演しており、桜井だろうが近藤だろうが一貫してヘタレ度MAXな演技は、終始笑えて潔かった。特に後半、桜井が殺し屋の近藤に成りきり演じるシーンがあるが、そこでの下手っぴ演技が本当に最高っ!あまりの演技のクサさ&情けなさに爆笑の後、思わず胸キュンしてしまった!広末涼子さんは、笑顔を見せないというイメージとはかけ離れた役を演じており、静かな役ながら、男性2人に負けず、淡々と笑いを誘う演技を繰り広げ、コメディエンヌっぷりを発揮。佇まいだけでも笑えてしまう、3人の中で1番おいしい役だと思う。 優れた監督に脚本、役者さん達が揃い、「面白い」映画のメソッドが浸出された、味わい深~い一作である。 |