レビュー一覧
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谷村ゆりさん(女性/40代) 「ダンボ」 4月4日(木) TOHOシネマズ日比谷にて |
ここ数年、自分が鑑賞する映画のジャンルが偏ってきていると感じたことが、ぴあ特別会員に応募したきっかけでした。まさか選んでいただけるとは思ってもみなかったので、今この文章を書く指も若干震えてしまうほど緊張していますが、1年間この場をお借りしてたくさんの映画の魅力をお伝えしていきたいと思います。 今回は「ダンボ」(字幕版)をご紹介します。ティム・バートン監督によるディズニーアニメの実写映画化と聞けば興味をそそられる方も多いのではないでしょうか。 大きな耳を使って空を飛ぶ赤ちゃんゾウの「ダンボ」が、人間によって引き離された母親に会いたい一心で、サーカス団の家族の力を借りて行動を起こすというストーリーは、家族で観られるディズニー映画の王道かと思います。しかし、スクリーンに広がる鮮やかな色彩の中に独特のシュールさが滲み出るティム・バートン監督らしさもまた健在です。 そして何と言ってもダンボのかわいさ。とにかく愛くるしいのです。動物が人間の言葉を簡単に理解するなどのアニメっぽい部分にはクスっと笑わされる一方、ダンボが空を飛ぶシーンではマジックのような高揚感と同時にリアリティが押し寄せてきて、劇場で鑑賞したからこその爽快感がありました。冒頭からファンタジックな世界観に引き込まれ、鑑賞後はディズニーランドで1日遊んだような気持ちになれる、そんな素敵な作品です。 |
中村千春さん(女性) 「ブラッククランズマン」 4月5日(金) シネクイントにて |
1970年代の後半アメリカ、黒人警官が白人至上主義団体KKKに入団するために、潜入捜査をするお話です。実話をベースにしていて、人種差別を扱った映画ですが、コミカルなシーンもあり、とても観やすい作品です。 黒人警官として採用されたロン・ストールーワースが同僚の白人警官フリップと手を組み、二人で一役を演じきる、二人のコンビネーションには、ハラハラされつつも見事なタッグに拍手を送りたくなります。 サスペンスエンターテイメントな部分もあり、エンドロールで流れるドキュメント映像には、衝撃を受けました。70年代後半の出来事だけど、現実にはまだ差別を巡った争いが続いている現実をつきつけられ、はっとさせられながらも胸が締め付けられます。 「アメリカンファースト」という考えが根付くアメリカで、人種差別をなくすのは難しいものなんだろうと思うほど。また、作品には70年代の音楽やファッションが取り入れられていてかっこよさも見られます。潜入物として楽しめ、差別を扱った社会派映画として、私達の日常に潜むちょっとした偏見や差別の根源とは何だろうと考えさられるでしょう。アメリカの変動の時代とよばれた60年70年代に興味をもてるかと思います。 幸運にもぴあ特別会員に選んでいただきました。この一年たくさんの作品に触れて楽しむことはもちろん、会員として各賞への投票という、光栄でかつ責任ある機会を頂けたので、作品の良さを自分なりに考えながら鑑賞し、作品の魅力を伝えていけたらと思います。 |
板谷政弘さん(男性/50代) 「バンブルビー」 3月30日(土) 109シネマズ港北にて |
今回ご紹介する映画は、あの大ヒットした「トランスフォーマー」(07)シリーズの人気キャラクター、バンブルビーを主役にして、過去に遡り始まりを明らかにするSFアクションです。地球外からやってきたバンブルビーと父親を亡くした哀しみからなかなか立ち直れないでいる思春期の少女チャーリーとの交流と友情がうまく描かれていて、バンブルビーがある意味とても人間らしく可愛く思えてきます。 少女チャーリーをとてもチャーミングなヘイリー・スタインフェルドが演じており、1980年代のどこか懐かしい感じの生活感とストレートな感じの音楽も心地よいです。「トランスフォーマー」の世界ではそのSF的なバトルのスピード感に圧倒されつつ、普通の人間家庭の日常も対照的に描かれていて、そのギャップもまた面白いです。色々な冒険に引き込まれてゆく少女が今までのコンプレックスを吹っ切って、最後に自分を取り戻すシーンが非常に感動的で、青春感、恋愛?もちょっぴりあり、盛沢山で見応えがあって単純に楽しめる作品としてお勧めです。 まさか自分がぴあ特別会員に選ばれるとは全く思ってもみなかったので、メールを頂いた時は正直舞い上がってしまいました。当然ですが、日本アカデミー賞の投票に参加するというような視点で映画を観たことがなかったので、その重責を今になってひしひしと感じ始めています。このような機会を与えて下さったことに感謝しながら、この一年間できるだけ多くの作品を見れるだけ見て、ほんの少しだけでも映画界に携われる喜びを感じていきたいと思います。 |
林啓輔さん(男性/20代) 「麻雀放浪記2020」 4月6日(土) 横浜ブルク13にて |
私は、映画館に通うことが好きな一映画ファンであります。「カメラを止めるな!」(18)を観たときの会場の一体感、「仮面ライダー 平成ジェネレーションズForever」(18)で巻き起こった悲鳴・歓声……『映画館で映画を見る』という行為は、これからもスマホや外の世界と遮断して1つのことに没頭し、場内で感情を共有する唯一無二の映像体験であり続けると思います。自分の純粋な「映画が好き」という気持ちが人の心を動かし、微力ながら映画館へ行くきっかけを作れたらと思います。甚だ僭越ではございますが、映画ファンの代表として、歴史ある日本アカデミー賞に声を届けられたらと存じます。 そして、今回ご紹介するのは「麻雀放浪記2020」(19)でございます。この作品を選んだ理由としては、様々な報道で公開の中止か否か、世間を騒がせてきた中で「公開」という英断を下した配給会社と白石和彌監督のメッセージを受け取りたいと思って鑑賞しました。 本作の印象としては、『緊張と緩和のバランス』が絶妙なのです。2020年の混沌とした世界観と、斎藤工演じる主人公の哲をとりまく個性豊かな面々。キャストを見たときに最初はピンときませんが、観終わった後は隅々まで『なるほどね』といった満足感です。東映配給で大ヒットを記録した「翔んで埼玉」(19)を思わせるような『真面目にふざける』路線が絶妙で、私を含め麻雀をよく知らない層にも十分楽しめます。バカバカしさ・ロマンス・バイオレンス…白石監督節が存分に効いており、映画の世界と現実の様相がリンクする瞬間は、ある種『持ってる』ということなのでしょうか。 これからも映画ならではの表現で『不謹慎』や『盲目的な慣例』を突き破っていくその監督の背中を追い続けたいと思います。 |
濱口ゆり子さん(女性/20代) 「ビリーブ 未来への大逆転」 3月30日(土) TOHOシネマズ新宿にて |
ジェンダーに基づく差別を無くすべく闘い続けてきたことで知られ、86歳になった今も現役のアメリカ最高裁判事として活躍するルース・ベイダー・ギンズバーグ。彼女に関するドキュメンタリー映画「RBG」(19年5月に日本公開予定)の情報でその存在を知り、彼女の若き日々を描いた映画があると聞いて早速鑑賞してまいりました。 映画の冒頭から既に、ルースがこれから飛び込もうとしている法律の世界が圧倒的な男社会であることが示されています。私自身、大学や職場など男女比に偏りのある環境は経験してきましたが、ルースの時代はその比ではありません。500名以上いるロー・スクール新入生の中で女性はたったの9名。おまけに学長には「なぜ男性の席を奪ってまでここで勉強しているのか?」と女性差別的な質問を投げかけられ、ロー・スクールを首席で卒業しても女だからという理由で雇ってくれる弁護士事務所が見つからない。でも、当時はそれが当たり前。そんな理不尽な状況に対して法律を武器に闘いを挑み、アメリカ社会そのものを変えてゆくルースの姿は、この上ないかっこ良さです。 ルースと夫のマーティンとの関係も印象的です。互いに応援し合い、共に法律家として大活躍する姿に、夫婦の理想の形を見た気がします。 まさか自分がぴあ特別会員に選んで頂けるとは思っていなかったので、知らされた時は飛び上がるほど嬉しく、何事も自分から諦めてしまうのではなく挑戦してみるものだなと感じました。最終的に1票を投じるという権利と責任を与えられていることを意識し、これまであまり観てこなかったジャンルにも関心を広げながら、1年間映画と誠実に向き合ってゆく所存です。 |