レビュー一覧
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川上 望さん(男性/59歳) 「プリンセス トヨトミ」 6月2日 ワーナーマイカルシネマズ大井にて |
念願叶って、ワイドスクリーンの邦画を2本観た。「岳」と「プリンセス トヨトミ」である。迫力充分のスクリーンに人間味豊かで力動的なドラマが展開し、どちらも見応えがあった。2本の内、不思議な味わいの後者の作品にスポットを当ててみたい。 「SP」に引き続き堤真一主演作品である。堤氏は、この作品では肩の力を抜いてひょうひょうと主人公を演じていた。堤と綾瀬はるか・岡田将生、3人が扮する会計検査院調査官が、大阪へ乗り込んでくるところからドラマは始まる。 OJO(大阪城趾整備機構)に流れていた使途不明金の流れを追っているうちに、はるか明治以前に認証されていた大阪国の存在が明らかになる。大阪城の抜け道の途中に密かに造られた地下の大阪国国会議事堂。壮大なセットを主要な舞台に物語が展開していく。総理大臣が、小さな食堂のさえない親父という設定もなかなか風変わりで面白かった。 原作に沿って描かれた世界が、観る者を本当に楽しませてくれる。演じる俳優達もドラマの人物になり切っていて、ほんとうにこれが現実ではないかと思えるくらいである。私も1年大阪に居たことがあるが、大阪という所は、本当に独特な雰囲気と住民同士の何ともいえない連帯感が漂っている場所である。大阪城も通天閣も大阪でしか味わえない独自のものだ。 堤真一も「SP」と違ってのびのびと主人公を演じていた。対する中井貴一も独特な存在感で、ただものではないおじさんを生き生きと演じている。ところどころに笑いのつぼを押さえ、楽しく観賞していくうちに大阪中の全府民が消えて、全ての活動が停止するクライマックスへとなだれ込むのである。 なぜ停止するのか、全員がどこへ消えるのかは、実際に映画で確かめてもらうしかないが、とにかくダイナミックな映像だった。横長のワイドスクリーンいっぱいに展開するドラマに目が釘付けになった。楽しんでいい気分になって観終わることのできる娯楽大作であることに間違いはない。期待を裏切らない作品だと私は思う。まだ見てない人は、ぜひ観てもらいたい。 |
佐藤 由美さん(女性/会社員) 「岳」5月30日(月) TOHOシネマズ日劇にて |
山岳救助ボランティア・島崎三歩(小栗旬)と新米救助隊・椎名久美(長澤まさみ)を軸に日本アルプスを舞台にした壮大な作品である。原作の漫画「岳 みんなの山」、作者の石塚真一氏もアメリカの大学時代にクライミングを始めた、れっきとした山男。実写映画化にあたっては良く出来たアイドル映画になってしまうのかな……と思いきや、主演の小栗旬はクランクイン前からトレーニングをし、あまりの上達に追加シーンが撮影されたほど。長澤まさみも男性隊員に混ざっての容赦ない雪山救助訓練などハードな撮影をこなしていた。 そんな中で、軽装で気軽に楽しみたい一般登山客との温度差に久美が憤りを感じるシーンがあった。登山ブームの中で、観光気分で訪れて遭難や事故に遭う事例は後を絶たない。未熟な久美を描くと共に初心者に対する警告にも感じた。その他に親子愛も多く描かれている。例え失っても命は受け継がれていくのだと……。 最後に音楽にもふれておきたい。音楽は「ALWAYS三丁目の夕日」、「ヤマト」、「海猿」シリーズなどを手掛けた佐藤直紀。とにかく奥行きを感じるドラマチックな曲揃いである。雪山の白、空の青に深さと輝きを色付けしている |
玉川上水の亀さん(男性/51歳/会社員) 「軽蔑」 5月31日 試写会にて |
久し振りの中上健次作品の映画化なので、否が応でも期待は高まります。その期待に主演の二人が熱く応えてくれた。映画のオープニングからラストまで、高いテンションでスクリーンから二人の発する熱がほとばしっている。この作品は、必ず今年度の話題作の一つになると思う。 映画は、新宿歌舞伎町のトップレス・ポールダンスクラブからスタートする。天涯孤独で若く美しいポールダンサー、真知子。地方の資産家の一人息子でありながら、歌舞伎町で自堕落な生活を送るカズ。ダンサーと客と云う立場ながら、互いに惹かれ合う二人。ある事件をきっかけに二人は急激に接近し、新宿から高飛びする。カズの故郷に二人は身を寄せるが、地元名士の息子と新宿のトップレスダンサーの縁組は、地元の誰からも歓迎されない。その人々の好奇の目と軽蔑的な態度に居た堪れない真知子は、東京に戻ってしまう。ここから先の二人の選択によって、物語は大きく悲劇的な展開に傾いていく。 原作にも出てくる言葉「五分と五分」の関係を保とうとすればする程、悲劇が加速してしまう二人。身寄りの無い真知子にとって「五分と五分」とは、自立すること。カズに依存してしまえば楽な筈だが、万が一、別れた時が怖くて出来ない。カズにとって「五分と五分」とは、地元に居れば、資産家の息子と云う立場になり、真知子が卑下されることが無いよう守り、腐心することだ。そのような二人の心を理解出来るのは、カズの悪友達であり、喫茶「アルマン」のマダムだけだ。だから理由は何であれ、彼らを傷つける奴等をカズは許せず、彼なりの落とし前を付ける。 主演の高良健吾君が「考えて演技する」ことは監督から駄目出しされたと話していたが、小手先の技術ではなく、役者の魂の演技を引き出し、フィルムに定着させた廣木監督の手腕が光る。そして何より、その監督の要求に応えた主演の二人、高良健吾と鈴木杏に惜しみない賞賛の拍手を送りたい! |